記者の良心が不正の蔓延る街を変えていく「ペン僞わらず 暴力の街」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

ラピュタ阿佐ヶ谷

映画監督 山本薩夫 社会派エンターテインメントの神髄 より

 

製作:日本映画演劇労働組合

監督:山本薩夫

脚本:八木保太郎 山形雄策

原作:朝日新聞浦和支局同人

撮影:植松永吉

美術:五所福之助

音楽:斎藤一郎

出演:志村喬 原保美 池部良 河野秋武 沼崎勲 三島雅夫

1950年2月26日公開

 

織物の本場の東条町では闇取引が横行し、警察や検察もその行為を黙認していました。大東新聞の新米記者北(原保美)は、町会副議長であり警察後援会長をも兼ねる大西(三島雅夫)の圧力にも屈せず、闇織物の横流しと暴力団と警察・検察の癒着を報道します。

 

大西は北の記事に激怒し、検察庁新築祝いの席上で、戸山検事(滝沢修)や署長はじめ町の有力者たちが居並ぶ中、北を殴りつける事件を起こします。更に、北の妹タヅ子(三條美紀)の友人春枝(岸旗江)は、北を葬る噂を聞きつけ、彼にそのことを告げます。北は暴力の前にあまりにも無力なことに絶望感が生じます。それでも、町の文化会をやっている猪野(山内明)の励ましにより、少しずつ希望が芽生えます。

 

大東新聞の佐川支局長(志村喬)は、この事件の背後に隠されている勢力を炙り出すために、川崎記者(池部良)を東条町に派遣し、安全を図るため北を支局勤務に交代させます。東条町に入った川崎は、早速暴力団の組員たちから脅しを受けます。しかし、警察や検察庁は一向に腰をあげようとはしませんでした。

 

佐川は支局の記者団を引きつれて東条町に乗りこみ、旅館に本拠を据えて取材を開始します。やくざの脅迫は止まず、春枝は警察署に呼ばれ脅迫まがいの取引を持ち掛けられます。やくざの横行を嫌う青年団の動きに従い、町にもすこしずつ大西たちに反発する空気も生れ、東条町に起きている出来事は次第に全国的なニュースへと拡大してゆきます。

 

本作は占領下の地方都市で実際に起きた「本庄事件」をベースにした原作を映画化しています。本庄事件は物資統制が行われていた時代に、埼玉県児玉郡本庄町(現:本庄市)で元博徒と暴力団が町を牛耳る中で闇取引が横行し、警察も検察もその行為を黙認していたことから、朝日新聞の記者が癒着を記事にしたために記者が暴行を受けた事件です。朝日新聞と住民が暴力団追放キャンペーンを張ると共に、暴力団と癒着していた行政を是正する運動にまで発展しました。

 

山本薩夫の政治思想とは全く相容れないのですが、左派特有の訴えを鬱陶しく思いつつも、記者が取材で情報を集めながら青年団と協力して、巨悪を追い詰めていく迫力は認めざるを得ません。また、憎々しい大西に怒りを覚えずにいられないほど観客への煽り方も絶妙で、社会派とされる映画監督でも話を面白くするための娯楽映画の作法を十分心得ています。

 

それにしても、戦後間もない混乱期とは言え、警察、役所、新聞も手を出せないほど巨悪がのさばっている事に驚かされます。警察官、役人、記者が暴力団と持ちつ持たれつの関係にあり、善良な市民はどこにも訴えられず、泣き寝入りをするしかない状況。

 

この勢力に起ちあがるのが大東新聞の記者たちで、現在の横並びの記者クラブに属する既存メディアより、(たとえ一社だったとしても)気骨がある分、過酷な状況でも街の人々はまだ救いがあったと言えます。翻って現在のメディアは、都合の悪い事実は報道しない自由とやらを行使し、時には印象操作どころか捏造までする始末。某新聞も敗戦間もない頃はまともだった時もあったことが分かる意味でも一見の価値があるでしょう。

 

この映画は各映画会社や劇団から様々な役者が集まっています。スターと言えるのは池部良くらいで、渋い脇役やベテランの名優が揃ったオールスター映画の様相も呈しています。東映好きからすると、安部徹のやくざはいつも通りの安定感がある一方、神田隆が善人役の新聞記者で、友人から糾弾される山内明と三條美紀に助け舟を出す粋な計らいにはニヤリとさせられます。

 

また、大坂志郎のあからさまに嫌がらせをするチンピラ役も意外と珍しい役柄。群像劇の性質上、どんな名優でも出番が少なくなるのは致し方ありませんが、見方を変えれば贅沢な起用法とも思えます。観客も映画を観ていくうちに、この役者も居たのかと見つける楽しみ方も出てきます。社会問題も然ることながら、役者の芝居も見応えのある映画でした。