戦時中に行方知れずになった女の幻を追い求めるうちに・・・「上海帰りのリル」を観て | パンクフロイドのブログ

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私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

浦和レッズ、ACL優勝しましたね。

おめでとうございます。

これで三度目の優勝。

Jリーグでは1度しか優勝していないのに(笑)。

それにしても、ヴィジュアルサポートは凄かった。

 

 

シネマヴェーラ渋谷

香川京子 畢生の純情派 より

 

製作:新東宝

監督:島耕二

脚本:椎名文 島耕二

原作:藤田澄子

撮影:三村明

美術:伊藤寿一

音楽:大森盛太郎

出演:水島道太郎 香川京子 森繁久彌 浜田百合子 津村謙

1952年4月4日公開

 

横浜の丘の上にあるキャバレー、クリフサイド・クラブからは今日もバンド・マネージャー岡村(森繁久彌)の指揮によって「上海帰りのリル」のメロディーが流れていました。岡村は指揮を執りながら上海時代を回想します。

 

岡村が上海のクリフサイド・クラブのバンドでドラムを叩いていた頃、彼は山本謙吉(水島道太郎)という男と同居していました。ある夜、謙吉がクラブのダンサーの竹本リル(香川京子)を、暴力団の田代から救ったことから、山本、リル、岡村との三人の温かい友情が育まれます。

 

ところが、連合国の空襲を受けた際、山本はリルとは離れ離れになり、失意のうちに帰国することになります。山本は人が変わったように金が全てと思い込み、戦後の闇市でのし上がっていきます。しかし、彼は常にリルの姿を求めていました。

 

そんなある日、山本はリルに似た女を見掛け、彼女の乗った自動車のナンバープレートから足取りを追います。その過程で、上海時代のリルの友達だった村井紀子(浜田百合子)に辿り着きます。しかし紀子はリルの居所を知らず、山本と一緒にリルの行方を追ううちに、彼に惹かれていきます。

 

一方、山本は横浜の丘の上に上海のクリフサイド・クラブを再現したキャバレーを作ることを思いつきます。そのキャバレーで三人の想い出の「上海リル」を流すことで、いつかリルの耳に入るのではないかと望みを託すのです。そして、戦後金の亡者になった山本に批判的だった岡村を招いて、彼の協力を得ながら着々と開店への準備を進めていきました。

 

ところが、資金繰りが苦しくなった上に、その影では地元の顔役の野村(見明凡太朗)一味がキャバレーを乗っ取るために暗躍していました。更に資金の調達に出した二郎(河井健二)が、金を持ち逃げしてしまう事態に見舞われます。八方塞がりの中、クリフサイド・クラブが開店します。山本はそのフロアでリルに瓜二つの女を目にします・・・。

 

本作は津村謙のヒット曲「上海帰りのリル」を基に作られた歌謡映画で、歌のサビの部分は私も耳にしたことがあります。また、松本清張の短編「捜査圏外の条件」では、この流行歌がきっかけになって、犯人が絞られるくだりがあったと記憶しています。それだけ、当時この歌が流行っていた証左でしょう。

 

 

私の興味を惹いたのは次の2点。

1.水島道太郎と森繁久彌という珍しい組み合わせ

2.劇中で香川京子の歌が聴ける

 

水島道太郎は情が篤い親分役を演じる一方で、非情な悪役もできる役者で、この映画ではその点において両方の味が出ています。森繁久彌は香川京子が絡む場面で、時に道化役となって幸福な三角関係を保つ潤滑油のような役割を果たしています。香川京子が劇中で歌う場面は、残念ながら鼻歌程度に留まっていて、バンドをバックに歌うことを想像していたため、些か肩透かしを食らった気分にさせられました。

 

この映画は森繁のナレーションで、過去を遡りながら愛した女の幻を追う男の痛ましい姿を描いています。山本は戦時中の上海滞在中に、クラブのダンサーのリルと知り合い、岡村を介した三人の理想的な友情関係を築きます。ところが、リルを巡って暗黒街のボスと揉めた末に、その手下どもの襲撃を受けます。山本はリルと追手から逃げる際に空襲に遭い、気がついた時には彼女の姿がなく、生死が分からぬまま帰国します。

 

リルが行方不明という状態が物語では効いていて、戦後になっても愛する女を捜し求める男の切なさがそこかしこに滲み出ています。また、山本の末路を思うと、リルがどうなったのか分からぬまま終わることで、余韻が残るものとなっていました。尤も、リルを想うあまり、身近にいた女たちの好意を無碍にするのは、ダメンズ好きにはツボにもなっていて、特に山本が最後に紀子に向けて発した一言は、口は災いの元と戒めを覚えましたね。