汚れた女を始末する考えに凝り固まった男が娼婦殺しをする「聖地には蜘蛛が巣を張る」を観て | パンクフロイドのブログ

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聖地には蜘蛛が巣を張る 公式サイト

 

チラシより

聖地マシュハドで起きた娼婦連続殺人事件。「街を浄化する」という犯行声明のもと殺人を繰り返す“スパイダー・キラー”に街は震撼していた。だが一部の市民は犯人を英雄視していく。事件を覆い隠そうとする不穏な圧力のもと、女性ジャーナリストのラヒミは危険を顧みずに果敢に事件を追う。ある夜、彼女は、家族と暮らす平凡な一人の男の心の深淵に潜んでいた狂気を目撃し、戦慄する——。

 

製作:デンマーク ドイツ スウェーデン フランス

監督:アリ・アッバシ

脚本:アフシン・カムラン・バーラミ アリ・アッバシ

撮影:ナディム・カールセン

美術:リナ・ノールドクビスト

音楽:マーティン・ディルコフ

出演:メフディ・バジェスタニ ザーラ・アミール・エブラヒミ

         アラシュ・アシュティアーニ フォルザン・ジャムシドネジャド

2023年4月14日公開

 

※ネタバレを含んでいますのでご注意ください

 

本作は2000年代初頭に実在した連続殺人鬼“スパイダー・キラー”による娼婦連続殺人事件を基に描いています。早い段階から犯人の正体が明かされるため、ミステリーとしての面白さはあまりありません。その代わり、イスラム社会における女性の地位の低さ、宗教の信仰からくる差別や偏見、人の心の奥底に根差す狂気等々、我々日本人とは異なる価値観を抱く民族への興味で話を引っ張っていく面白さがあります。

 

妻子のあるサイードは、普通の家庭生活を送りながら、娼婦を汚らわしい存在として裁いて行きます。ただし、彼は必ずしも用意周到な計画に基づいて実行している訳ではありません。目に付いた娼婦を、家族が留守にしている間を見計らって自宅に誘い込み、死体の運搬にしても人目に付きやすいバイクを使用するなど、かなり見つかりそうな危険を伴っています。また、自分より小柄で華奢な女性を選べば、殺しにも死体を運ぶのにも手間が少なくなるのに、わざわざガタイの良い娼婦を選んだために四苦八苦する様を見ると、不謹慎ながら笑いたくなってきます。

 

ジャーナリストのラヒミは一連の事件を取材するため、警察の協力を仰ごうとします。しかし、権威主義国家や全体主義国家はしばしばジャーナリストを敵視する傾向がある上に、女性を見下しがちでもあります。そのため、ラヒミも嫌がらせをされるばかりか、貞操の危険を感じるほどの脅しまで受けます。観ているこちらは、比較的公明正大な日本の警察とは雲泥の差があることを思い知らされます。

 

警察の一部には娼婦を街から排除したい考えがあり、また、身を堕としたのはそれなりの事情があると分かっている筈なのに、男のみならず女も娼婦に対しては手厳しいです。被害者の母親にしても、娘の死を嘆き悲しみたいのに、同調圧力が強いせいか、表立っては娘が娼婦になったことを批難せざるを得ないのが、観ていても辛くなってきます。

 

ラヒミは通常の取材では拉致が明かないと悟り、自分が囮となって犯人を炙り出そうとします。その甲斐あって、彼女はサイードを警察に引き渡すまでに漕ぎつけます。民主主義国家ならば、これで一件落着になるのですが、宗教を背景とする独裁政治体制の国では必ずしもそうはなりません。司法の側も釈放を要求する声を無視する訳には行かず、裁判の対応に苦慮します。その結果、政治的な綱引きをした末に、サイードとその家族を騙し討ちする形で決着がつきます。

 

判決と刑の執行自体は妥当な線に落ち着くのですが、最高指導者が実質三権を掌握している国らしく、そこに至るまでの経緯は政治の嫌らしさが滲み出て苦さばかりが残ります。国にはそれぞれの基盤となる宗教、風土、慣習等があり、民主主義側にいる我々には計り知れないものを抱えています。したがって、民主主義の価値基準で物事の是非を問うつもりはありません。それでも、移民問題、外国人参政権の議論になった時には、我々とは異なる価値観を持って生活する民族がいることは、頭の片隅にでも留めておいたほうがいいかもしれません。