30年の昏睡から目覚めた患者と人付き合いの苦手な医師との交流 「レナードの朝」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:アメリカ

監督:ベニー・マーシャル

脚本:スティーヴン・ザイリアン

原作:オリヴァー・サックス

撮影:ミロスラフ・オンドリツェク

美術:アントン・ファースト

音楽:ランディ・ニューマン

出演:ロバート・デ・ニーロ ロビン・ウィリアムズ

        ジュリー・カヴナー マックス・フォン・シドー

1991年4月5日公開

 

1969年、人付き合いが苦手なマルコム・セイヤー医師(ロビン・ウィリアムズ)が、ブロンクスの慢性神経病患者専門のベインブリッジ病院に赴任して来ます。彼はそもそも研究が専門であり臨床経験のないため、患者との接し方に苦労します。それでもセイヤーの誠実な人柄と真摯な仕事によって、看護師のエレノア(ジュリー・カヴナー)を始めとする病院スタッフや患者から信頼を得るようになります。

 

そんなある日、彼は患者たちに反射神経が残っていることに気付き、ボールや音楽など様々なものを使った訓練を施し、リハビリの成果をあげていきます。セイヤーは更なる回復を目指し、最も重症のレナード(ロバート・デ・ニーロ)に対して、公式に認められていないパーキンソン氏病の新薬を使うことを上司のカウフマン医師(ジョン・ハード)に進言します。カウフマンはレナードの母親(ルース・ネルソン)の同意を得た上で、薬の使用を許可します。

 

その結果、ある夜、レナードは自力でベッドから起き上がり、セイヤーと言葉を交わすまでの効果が表れます。30年ぶりに目覚め、機能を回復したレナードは、セイヤーとともに町に出て、新鮮な気分を味わいます。同時に、二人は患者と医師との関係を超えた友情を育みます。この成功を踏まえ、病院スタッフらの後押しもあり、他の患者たちにも同じ薬を使用してみます。すると、患者たちは忽ち機能を回復し、生きる幸せを噛み締めるのです。

 

ある日、レナードは、父親の見舞いにやって来た若い女性ポーラ(ペネロープ・アン・ミラー)と出会い、彼女に恋をします。更に彼は病院から1人で外出したいと願い出ますが、経過を慎重に観察したい医師団から却下されます。医師たちの決定に怒ったレナードは暴れ出し、それをきっかけに病状が悪化し始めるとともに凶暴になって行きます・・・。

 

セイヤーはベインブリッジ病院に神経系の研究をするために赴任してきたのに、いきなり医療現場で働く羽目になります。彼は人とのコミュニケーションが苦手の上に、現場での経験も皆無なことから患者との接し方に苦労します。それでも、看護師のエレノアを始めとする下働きのスタッフに支えながら、徐々に仕事に馴染んでいきます。

 

寝たきりのレナードが登場するまでの前振りが割と長いことや、登場後も暫くは患者のうちの一人と言う扱いだったため、当初思い描いていた展開とは異なるものになっていました。それでも、本作はセイヤーの人間性や病院事情など、物語の背景がしっかり描かれていたことにより、人間ドラマとして味わい深いものになっています。

 

特効薬を投与されたレナードは、劇的な変化が見られるようになります。意識を取り戻した彼は、日常の生活を送る喜びを取り戻す一方で、30年もの月日が失われていたことを思い知らされます。鏡に映った自分の姿に違和感を覚え、街の景色や人々のファッションの変化にも戸惑います。時は60年代末のフラワームーブメントの時代なので、戦前に発病したレナードにとっては浦島太郎状態。

 

それでも彼は、前向きに治療を続けたおかげで順調に回復していき、病院側も彼の症状の改善に自信を得て、他の重傷患者にも特効薬を投与していきます。ただし、患者たちが一晩のうちに一斉に歩けるようになるまで回復するのは、いくら映画的な効果を狙ったとは言え苦笑を禁じ得ませんでした。

 

正常な生活を送れるようになったレナードは、病院内で父親の見舞いに来たポーラを見初め、付き添い無しの外出を訴えます。彼は初老の姿でも、心は少年時代を引き摺ったままなので、若い女性に恋するのも、保護者なしで自由に外出したくなるのも無理はありません。

 

そんなレナードに対して、病院側が慎重になる気持ちも良く分かります。効き目があったとは言え、後遺症の心配は常にあり、暫く様子を見てから判断しようとする選択はあながち間違いでもないでしょう。また、外出を許した結果、レナードが問題を起こしたら、病院の責任を問われる恐れも出てきます。こうしたことから、レナードを擁護するセイヤーも、病院の下した選択に強く反対は唱えられません。

 

しかし、レナードは怒りのあまり、脱走を試みた末に取り押さえられ、他の患者を巻き込んで抗議活動を起こします。また、薬の効き目も徐々に切れ始め、レナードは自分の身体を制御できなくなってきます。レナードを演じるロバート・デ・ニーロの芝居は巧みな反面、過剰な演技が鼻につき、ややもすると身障者を見世物にしているように感じるのも否めません。

 

ここからの展開は観ていても辛くなってきますが、実話に基づいた映画なので仕方ありませんね。回復した際の母親との対面、後援者に追加支援を願い出ることを渋るカウフマンに対して、看護師や清掃人などのスタッフが見せる心意気など、胸に響く場面が散見されただけに、レナードの身体と心が崩れていく様が余計痛々しく映ります。

 

それでも、レナードがポーラに別れを告げた際に彼女が見せる粋な計らいは、観客の琴線にも触れ、湿っぽくなりがちな話を上手く緩和させていました。ラストのセイヤーがエレノアに見せた変化も、映画の後味を良くしていたように思います。