試合中に二人の命を失わせたボクサーが北海道の山奥に向かい・・・「栄光への反逆」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

才気と洒脱 中平康の世界 より

 

製作:東宝

監督:中平康

脚本:中西隆三 宮下教雄

原作:柴田錬三郎

撮影:黒田徳三

美術:小川一男

音楽:伊部晴美

出演:黒沢年男 松原智恵子 三橋達也 岡田英次 高橋紀子

         大前均 田中邦衛 北沢彪 睦五郎 寺田農 左卜全

1970年4月4日公開

 

芝雄吉(黒沢年男)は試合中に相手のボクサーを死に至らしめました。彼はその前の試合も一人殴り殺していました。彼はこのままボクシングを続ける限り、人を殺す機械と化していきそうで、罪の意識に苛まれます。雄吉は興業界の大物・室町東吾(三橋達也)の養女、千代(松原智恵子)にその悩みを打ち明けます。

 

千代は雄吉に百年亡者と仇名される彼女の大伯父・佐木正助(岡田英次)の話をします。その男は幼い子を教会に預けたまま行方をくらまし、今では砂金採りに北海道の山奥へ入ったきりだということでした。その話を聞いた雄吉は、過酷な自然の中で暮らす老人に興味を惹かれ、ボクサーの栄光の座を捨てて、百年亡者に会うべく北海道に向かいます。

 

北海道に着いた雄吉は、百年亡者は人助けから人殺しをしてしまい、そのままカムイ山へ入って、現在は消息不明であることを知ります。一方、千代も雄吉の後を追い北海道へと向かいます。雄吉は奥へ奥へと進みましたが、密猟者の一団であるノサップの猪之(睦五郎)の一家に襲われ、凍死寸前のところをアイヌの血が交じった娘マキ(高橋紀子)に助けられます。

 

マキは町で、雄吉を捜していた千代と会い、一緒に戻ってきましたが、その時には雄吉の姿は既にありませんでした。更に山奥に入った雄吉は、漸く百年亡者に巡り合い、一緒に暮らすことを許されます。ところが、雄吉に密猟の現場を見られたノサップ一家は、警察に通報されるのを怖れ、執拗に彼の行方を追っていました。そして、雄吉が百年亡者の家に居ることを知った彼らは、二人を亡き者にしようとするのですが・・・。

 

才気煥発な中平康が手掛けるには、本領が発揮しにくい題材だったように思います。端的に言うと、中平でなくとも他の監督でも務まる映画です。とは言え、見どころが全くなかった映画ではありません。

 

まず、北海道ロケが絶大な効果を発揮しています。特に雪原を背景に繰り広げられるアクションの数々には目を奪われます。主役の黒沢年男も雄大な北海道の自然に応えるように、身体を張った芝居を見せます。雪解けとは言え、冷たい水の中に体を浸す場面では、彼の役者魂が窺えます。

 

また、お行儀の良い東宝映画にしては、珍しく悪役の卑劣さが際立っています。その筆頭がノサップ一家の親分を演じる睦五郎。雄吉から金目の物を奪い取るのを始め、千代に雄吉から奪ったロサリオを売りつけるのみならず、彼女が是非とも手に入れたい素振りを見せると、途端に値を吊り上げるイヤらしさを発揮します。密猟から足を洗った虎武(田中邦衛)に対しても、子分を使って殺させ、狐の毛皮を渡さずに金だけ奪うあくどいやり方をします。

 

個人的には、お気に入りの高橋紀子が出演している点も大きいです。愛くるしさは相変わらずで、成熟した松原智恵子とどちらを選ぶかと問われたら迷いが生じます。ちなみにこの映画では、かつての夫・寺田農もノサップ一家の中の子分の一人として目立った活躍を見せます。本作がきっかけとなって、高橋紀子と付き合いだしたのかは定かでありませんが、役柄と相まって憎らしさが増してきます(笑)。

 

 

50年代から60年代半ばにかけての中平康の映画観ている者としては、凡庸な(失礼!)本作は甚だ物足りないと言わざるを得ません。ただし、前述したように自分なりの面白そうなポイントを見つけていけば、それなりに楽しめる作品になっています。雄吉の世界タイトルがかかったボクシング中継の放送席に、ファイティング原田と原作者の柴田錬三郎を特別出演させたのは、せめてもの観客へのサーヴィスだったでしょうか。