委縮する戦後の日本人に喝を入れる「少林寺拳法」を観て | パンクフロイドのブログ

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池袋 新文芸坐

世界のアクションスター 追悼 千葉真一 より

 

製作:東映

監督:鈴木則文

脚本:松本功

撮影:中島芳男

美術:中村修一郎

音楽:菊池俊輔

出演:千葉真一 佐藤允 中島ゆたか 丹波哲郎 小池朝雄

         安岡力也 名和宏 誠直也 志穂美悦子 室田日出男 小松方正

1975年2月15日公開

 

戦時中に中国大陸で日本軍の特務機関の下で諜報活動をしていた宗道臣(千葉真一)は、敗戦後、焦土と化した故国の土を踏みます。道臣は、戦勝国の横暴に我慢できず、不正を働く輩には正義の鉄拳を下しました。大阪の阿倍野に落ち着いた道臣は、身寄りのない浮浪児たちと共同生活を送ります。道臣は不法を許すが不正は批難し、GHQから闇物資を調達する赤松組から物を盗んでは、子供たちとその日暮しの生活を送っていました。

 

そんなある日、道臣は売春婦たちからリンチを受けている女を救います。その女は引き揚げ船で一緒だった娘、菊(中島ゆたか)でした。それ以来、彼女は道臣の差配で子供たちの面倒を見るようになります。数日後、GHQのジープが菊の弟を撥ね、これに怒った道臣がジープに乗っていた米兵をボコボコにして警察に逮捕されます。警察署長の小早川(丹波哲郎)は道臣の気概に惚れ、GHQに処刑されるのを見過ごせず秘かに脱走させます。

 

道臣は菊に子供の世話を託し、阿倍野を離れます。その後、道臣は四国・多度津に渡り、拳法の道場を開きました。その土地では岩佐組がのさばり、多度津の人たちは迷惑を被っていました。道臣は事あるごとに岩佐組の非道な行為から街の人々を救い、敗戦の痛手から立ち直れていなかった友田(誠直也)も、妹の美穂(志穂美悦子)と共に道臣の道場に入門します。

 

しかし、岩佐組の暴力は止むことなく、岩佐(名和宏)はこの地に来た赤松組の組長の赤松(小池朝雄)と手を組み、地上げに邁進します。その結果、道臣の盟友と呼ぶべき大滝(佐藤允)までも殺されてしまいます。怒りの頂点に達した道臣は・・・。

 

日本少林寺拳法の開祖・宗道臣の半生を描いたアクション映画です。宗道臣の前には次々と理不尽な出来事がふりかかってきます。少年時代には貧しさゆえに、道臣に非がないにも関わらず、地主の子に手を出したために、母親が泣く泣く我が子に手を上げざるを得なかったこと。敗戦後、満州から日本に引き揚げる際に、日本の軍人が菊を中国人に差し出して便宜を図ろうとしたこと。引き揚げしてきた日本において三国人が満員電車の中で我が物顔をして日本人に数々の非礼を働くこと。

 

こうした道理にもとる場面で、謝罪もしくは見て見ぬふりをすれば無事に過ごせるにも関わらず、筋の通らないこと、非道な行為に毅然と立ち向かう道臣の姿に、日本人の失ってしまった道義を見出すことができます。日本人には「敗戦国だからと言って委縮する必要はない。30万人の三国人に8000万人の日本人がひれ伏すのはおかしい」とゲキを飛ばし、不逞の輩にも「日本人と三国人が手を取り合って一緒に日本を再建して行こうじゃないか」と呼びかける道臣の言葉は、そのまま日本の政治家が左派メディアや近隣諸国から叩かれるのを恐れ、英霊の祀ってある靖国神社に参拝に行けない日本の現状とも重なってきます。

 

道臣の根底には国を守るために命懸けで戦ったのに、生き残った日本人がそれに応えていない歯痒さと苛立ちがあります。赤松や岩佐のような外道なやくざは元より、彼らの横暴さに声を上げようとしない市井の人々にこそ、道臣の批難の目が向いています。したがって、身を護る武術と共に、強大な権力に負けないだけの強い精神を養うことで、彼が少林寺拳法を開祖し普及することに勤めたことも腑に落ちてきます。

 

ただし、鈴木則文監督が手掛ける娯楽作なので、道臣の生い立ちや当時の社会情勢を考察するのは最小限に留め、非道なやくざに千葉真一が鉄槌を下すアクション映画と楽しめばよろしいように思います。殊にやくざたちの遣り口がエゲつないため、余計に彼らを懲らしめる際の千葉ちゃんの格闘アクションに喝采を送りたくなります。任侠映画のように悪事に対して我慢を溜め込むのではなく、本能の赴くままその場で決着をつけるのが、千葉真一のキャラクターにも合っていると思えました。