密貿易と人身売買の黒幕は誰か?「右門捕物帖 片眼狼」を観て | パンクフロイドのブログ

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神保町シアター

没後40年 嵐寛寿郎 より

 

製作:新東宝 総芸プロ

配給:新東宝

監督:中川信夫

脚本:豊田栄

原作:佐々木味津三

撮影:河崎喜久三

美術:梶由造

音楽:鈴木静一

出演:嵐寛寿郎 柳家金語楼 花井蘭子 清川荘司 進藤英太郎 伊達里子 榎本健一

1951年1月8日公開

 

幕府直領の海津港では卍組一味が横行し、犯罪者の巣窟になっていました。そのため、老中松平伊豆守は石子伴昨(清川荘司)を代官として彼の地に赴任させようとします。その情報を得た卍組の一発屋斉兵衛(進藤英太郎)は、腕利きのむっつり右門も同行していると聞き、右門を亡き者にしようとします。折しも、盗品の財宝と攫ってきた女達を船に積んで薩摩に運ぼうとしていた時期であり、色々と探られるのを怖れたためです。

 

一発屋に命じられた配下の者たちは、一行を待ち伏せて襲撃しますが、右門を乗せていたと思われる籠はもぬけの空でした。その頃、この町の酒場萬燈屋に隻眼の片眼狼(嵐寛寿郎)が現れ、卍組の仲間になります。萬燈屋の名代女お吉(花井蘭子)は素性の分からぬ素浪人を怪しみますが、片目狼はお吉を軽く受け流します。また、右門の一の子分のおしゃべり伝六(柳家金語楼)も、板前として萬燈屋に潜入し一味の様子を探ります。

 

その後、萬燈屋にやってきた石子に対して一歩も引かぬ姿勢を貫いた片眼狼に、お吉は惚れてしまいます。一方、いつ右門が現れるか気が気でない一発屋は、船が到着する前に貴重な骨董品の“松風”と当地に保養中の松平家の息女雪姫(深川清美)を攫ってきたいと、卍組の仲間たちに計画を打ち明けます。一味は松風を奪うことに成功したものの、右門(嵐寛寿郎:二役)に邪魔されて奪い返されてしまいます。

 

もうひとつのお目当ての雪姫は警護が厳しく、大勢で襲撃すると目立つ怖れがあり、片眼狼が自ら名乗り出て、単身雪姫を攫って来ます。やがて、石子が役人を引き連れて萬燈屋に雪崩れ込み、雪姫誘拐の疑いがかかった片眼狼を引き渡すよう告げます。片眼狼は意外にもあっさりとお縄につきます。やがて、海津港に薩摩行きの船が到着すると、一発屋は卍組の浪人たちに、盗品と女たちを船に運び込むよう指示します。

 

そこに、片眼狼がふらりと現れ、一発屋やお吉を驚かせます。片眼狼は何事もなかったように、役人を斬ってきたと言い、二階の壁にある貼り紙に注目させます。その紙には太鼓を5つ叩くよう指示し、それを合図に右門が現れることを予告してありました。その夜、店に集まった卍組の連中を前に、一発屋は誰が太鼓を叩く?と問いかけます。すると、片眼狼が名乗り出て太鼓を叩き始めるのですが・・・。

 

タイトルからてっきり大友柳太朗主演の「右門捕物帖 片眼の狼」と同じ話かと思ったら、全く別物だったので面食らいました。前半は歌がふんだんに盛り込まれ、沢島忠監督のようなモダンで洒落っ気のある時代劇にこそなっていませんが、ちょっとしたミュージカル仕立てになっています。

 

片眼狼イコール右門であることは、早い段階で明かされているため、主人公の正体の意外性という点では些か興味が削がれます。その代わりに、卍組の首領の正体をなかなか明かさないので、そちらの興味で話を引っ張っている感はあります。首領の正体は大友版同様に意外性があり、面白い趣向なのですが、如何せん、終盤において背格好で誰であるか見当がついてしまうのは惜しいです。その意外性から犯行動機に注目が集まるものの、全く伏線が張られていないため、後出しジャンケン感は否めません。

 

話としては、敵の組織に潜入して悪事を突き止め、首領を炙りだすという流れで目新しいものではないです。そうした話の凡庸さを、脇役陣が補っていた感があります。大友版であばたの敬四郎をコミカルに演じていた進藤英太郎は、こちらでは浪人たちを指揮して悪事を働く悪役で、うるさ型の悪党をいつも通りに安心安定の芝居で見せていました。おしゃべり伝六と言う割には、柳家金語楼は饒舌でないものの、そこはかとない可笑しみを滲ませます。むしろ喧嘩相手の松を演じる渡辺篤のほうが喋くり倒していて、コメディリリーフの役目を果たしていました。

 

特別出演の榎本健一はあまり見せ場がありませんが、大盤振る舞いをする場面では、華のある喜劇役者の一端を見せます。中村是好は相変わらずいぶし銀の芝居で相手役を引き立たせ、悪党一味の中でも伊藤雄之助は格段に目立っていましたよ。ただし、主役の片眼狼がやたらと唾を吐くシーンが多いのは感心しません。無頼漢の雰囲気を出すためとは言え、演じているのが大スタアの嵐寛寿郎であることを考えれば、もう少しやり方があったのでは?と思えましたね。