チラシより
余生をゆっくりと過ごすためシニアタウンに引っ越してきたマーサ(ダイアン・キートン)。しかし、お節介焼きの隣人シェリルに、「昔、チアリーダーになりたかったの」とこぼしたところ、「夢を叶えるのは今からでも遅くない」と焚き付けられ、チアリーディング・クラブを結成することに―。オーディションに集まったのはチア未経験どころか、腕も足も上がらない8人。まわりには絶対できっこないと笑われ、バカにされながらも、お互いを励まし合いながら練習に打ち込みチアリーディング大会に出場を決めるが…。
製作:アメリカ
監督:ザラ・ヘイズ
原案:ジェーン・アトキンソン ザラ・ヘイズ
脚本:ジェーン・アトキンソン
撮影:ティム・オアー
美術:セリーヌ・ディアノ
音楽:デボラ・ルーリー
出演:ダイアン・キートン ジャッキー・ウィーヴァー パム・グリア セリア・ウェストン リー・パールマン
2020年7月3日公開
マーサが身の周りを整理し、予約した診察をキャンセルし、シニアタウンに引っ越してきたことで、彼女が何故住み慣れた都会生活を捨てたのかは凡その見当がつきます。特にシェリル(ジャッキー・ウィーヴァー)が只食いする目的で、無理矢理他人の葬式に付き合わされた挙句、居たたまれなくなってその場を去り、シェリルとも当分連絡をつけようとしなかった理由も容易に頷けます。
ただしそれを契機に、以前叶わなかった夢を実現するためにチアリーディングのクラブを結成するに至った動機も、マーサには残された時間が少ないことから腑に落ちてきます。不快な思いをさせられたシェリルを、敢えてマーサが相棒役に指名したのも深慮遠謀に長けています。あるいは、マーサがシェリルの本質を見抜いていたとも言えますね。
シェリルはシニアタウンの規則をたびたび破っていながらも、人の道を踏み外すような真似はしていません。同じ不良の行為でも、陰湿ないじめには加担せず、他愛ない悪戯程度のものばかりで、てへペロで許せちゃう憎めないところがあります。
その一方で、自分がビッチと言われても軽く受け流す反面、チアリーディングを指導してくれる若い女の子に尻軽女と暴言を吐いた親爺に対しては食ってかかる熱いところがあるのがいいですよ。本物の不良は年を食ってもカッコよく、シェリルを演じたジャッキー・ウィーヴァーは「アニマル・キングダム」の犯罪一家の肝っ玉婆さんを演じただけに、マーサを補佐するにはうってつけと言えましょう。
クラブとして認められる8名は揃えたものの、何しろ高齢で素人のため、若い女の子の動きの速いチアリーディングを見ると、見劣りするのは否めません。しかも、練習場所を確保するのも難しい上に、メンバーの一人が怪我をして車椅子の世話にならなければならなくなります。壮行会でマーサのチームが特別出演した際には、無様な姿を曝け出し、動画サイトに配信されたことで笑いものになり、一時的に解散を余儀なくされます。
普通ならば、動画をUPした人物を捜し出して吊るし上げたいところですが、自分の側に取り込んでしまうところが年の功でしょう。年老いたチアリーダーに協力するクロエ(アリーシャ・ボー)は動画を撮っただけで、動画サイトにあげた仲間は別にいます。それでもやはり、彼女には罪悪感があり、自分の練習時間を削ってでも老女たちに付き合おうとします。
こうして、マーサを始めとするチームはクロエの指導の下で練習に励み、晴れの舞台に出場して名誉挽回しようとします。私の大好物な負け犬の逆襲要素が加わる上に、胸熱の描写が随所に出てくるので、自然と目頭も熱くなります。
ヒネた性格の者からすると、ハートウォーミングな話は綺麗ごとに終始するのではないかと警戒心があったのですが、この映画はカラっとした笑いに包まれ、そこに適度な湿り気が帯びていて、そのバランスが非常に良いのです。マーサ不在のエピローグに関してもサラっと描かれていて、却って心地良い余韻として残ります。