役者の技量で見せるギャング映画 「親分を倒せ」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

石井輝男 キング・オブ・カルトの猛襲 より

 

製作:東映

監督・脚本:石井輝男

原作:ウィリアム・P・マッギヴァーン

撮影:西川庄衛

美術:森幹男

音楽:八木正生

出演:高倉健 三田佳子 沢本忠雄 南廣 金子信雄 杉浦直樹 根岸明美 平幹二朗 千田是也

1963年6月22日公開

 

元刑事の吉岡(高倉健)は、今ではやくざ者に成り下がっていました。ある日、吉岡は仲間の金田(金子信雄)に呼び出されます。バーのマダム殺しの犯人を目撃した吉岡巡査(沢本忠雄)を説得して、偽の証言をさせろとの依頼でした。その巡査が吉岡の弟だったからです。犯人の小森(待田京介)は、ボスの柳沢(千田是也)が使っていた殺し屋で、警察に挙げられるとまずいことになっていました。

 

吉岡は弟を説得しようとしたものの、兄の頼みを拒絶します。このままでは弟の身に危険が及ぶと感じた吉岡は、弟の恋人でクラブ歌手の路子(三田佳子)を脅して、弟の決心を翻そうとします。路子は神戸にいた頃、ギャングの情婦でしたが、現在は更生して吉岡の弟を心から愛しており、吉岡の脅しにも屈しません。

 

吉岡は説得をあきらめ、柳沢に逆らって、小森を元同僚の南田刑事(杉浦直樹)に逮捕させます。ところが、弟は深夜に路子の目の前で射殺されてしまいます。吉岡は復讐を誓い、昔なじみの記者(南廣)と協力して、柳沢、金田、小森の三人が十年前の銀行襲撃事件に関わっていたことを突き止めます。更に、吉岡は弟殺しの犯人が潜むホテルへ向かうのですが・・・。

 

健さん主演の初期作品には、しばしば無鉄砲でやんちゃな健さんを堪能できます。本作もその例に漏れず、制御の効かない危うい魅力が詰まっていて、東映の任侠映画、東映を離れた後のストイックな健さんしか知らない層には新鮮に映るでしょう。しかも、弟に口止めさせるために、あくどい手を使い、時には弟の恋人と関係を持ったかのように仄めかす(実際はキス止まり)など、ワルの部分も存分に披露しています。

 

犯人を目撃した警官役を沢本忠雄が演じており、健さんの弟役にしては釣り合いが取れてない感じです。ここは千葉ちゃんか辰ちゃんあたりに演じてもらいたかったなぁ。三田佳子はかつてやくざの情婦だった過去がある女の役で、大人の女に相応しい順当な配役。事件のきっかけを作るのが待田京介で、殺し屋にしては迂闊な行動が多く見られ、どちらかと言えばチンピラに近い役柄。

 

その待田を守るために、健さんに裏工作を依頼するのが千田是也と金子信雄。千田は一見すると堅気にも映り、フィクサー役には適任です。金子は後年における老獪さは影を潜め、まだ小物感が漂います。その金子の情婦を演じるのが根岸明美。終始酔っ払っており、金子が健さんにボコられているにも関わらず、突然フラメンコを踊り出すという奇天烈な場面もあります。杉浦直樹は健さんが刑事だった頃の同僚で、やくざになった健さんに心を痛めていると言った具合に、役者の芝居に負うところの多い映画です。

 

裏を返せばストーリーとして弱い証でもあります。その要因のひとつに、健さんが裏社会に落ちた理由が一切説明されていない点が挙げられます。観客に理由が分からないため、弟の兄に対する反発が今イチ響かないのですよ。尤も、健さんが刑事を辞める理由が正当且つ同情されるものならば、兄弟の確執が弱くなり、それはそれで困るのですが・・・。

 

金子の根岸に対する執着ぶりも分かりづらいです。金子は根岸のフラメンコの件で腹を立て、沢謙彰の経営する女郎屋に売り飛ばそうとしたものの、再び惜しくなって、沢の子分が手をつけたにも関わらず、彼女を引き取ろうとします。根岸が絶世の美女ならばまだしも、酔っ払うところしか見せていないため、金子が彼女にこだわる理由が不思議でなりません。

 

事程左様にツッコミどころは多々あるのですが、挙げて行くとキリがないので、この辺でやめておきます。石井輝男監督は題材によっては、物語が破綻したほうが逆に魅力に思える映画もあり、一概に否定することはできません。本作はツッコミを含めて楽しいと思える、石井ファン向きの映画かもしれません。