価値観の違いが悲劇をもたらす「暁の急襲」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のとことんディープな世界 より

 

製作:新東宝

監督:春原政久

脚本:館岡謙之助 井手雅人

撮影:山中進

美術:伊藤寿一

音楽:斎藤一郎

出演:水島道太郎 清川荘司 藤田泰子 片山明彦 高島稔 香川京子 藤田進 田崎潤

1951年12月14日公開

 

上野の交番に勤務する上林(清川荘司)と加川(水島道太郎)の両巡査は、仕事熱心で思い遣りのある人たちでした。下宿を追い出された加川は上林家へ同居させてもらい、上林の娘綾子(藤田泰子)、息子實(片山明彦)、正雄(高島稔)たちと一緒に暮すことになります。

 

ある日、加川は水月荘の賭博のガサ入れの際に、その片隅でふるえていた娘由紀江(香川京子)を保護します。そんな折、加川、綾子、正雄がハイキングに行った留守に、非番の上林が消火活動を手伝った際に、深手を負って亡くなります。

 

一方、身寄りのない由紀江は一時上林家に同居しますが、彼女の就職のことで加川と實の意見が割れ、由紀江は居たたまれず行方をくらましてしまいます。やがて、加川は巡査部長に昇進して綾子とささやかな結婚式を挙げることになります。その式の最中に、覚醒剤密売の証拠があがり、あるキャバレーへ手入れをすることになり、加川自身も式なかばで出勤します。

 

キャバレーの支配人濱田(田崎潤)は、由紀江を世話していましたが、實が偶然彼女を見つけ、一緒に逃げようとします。ところが、實は濱田の一味に見つけられ、倉庫でヤキを入れられている時に、警官隊が倉庫を包囲します。その後、銃撃戦となり、實は由紀江を救おうと、濱田のいるキャバレーに向かうのですが・・・。

 

若い水島道太郎の巡査姿、香川京子のホステス役とキスシーンは貴重ですが、個人的に目が向いたのは映画のロケ地。加川の勤務先が上野であることや、彼の下宿先の風景から、おそらく主に日暮里で撮影されたと思われます。陸橋から見る駅や周りの景色を見ても、現在地がすくに把握できてしまいます。

 

そのことはさておき、本作は巡査が同郷の娘を保護したことがきっかけとなって、娘と彼女に好意を抱く青年が犯罪組織に巻き込まれていく話です。加川はお人好しな面があり、先輩巡査の上林家に厄介になったのも、前の下宿先の都合で予定より早く移らなければならなくなった事情があります。上林は加川の人柄を見込んで快く承諾し、行く行くは自分の娘を彼の嫁にしたいとまで考えています。

 

そんな父親に対し、息子の實は否定的な見方をしています。彼は、昼間は建築会社で働き、夜は学校に通う苦学生なのですが、父親の稼ぎが少ないために、一般の大学に入れないことに不満を抱いています。父親は誠実な生き方をモットーとするのに対し、息子は合理主義者で結果が全てという考えをもっており、価値観の違いからしばしば衝突します。

 

そんな上林は非番の日に消火活動に駆り出された末に、救出活動中に亡くなります。上林が出勤の要請を受ける直前に、實は父親とちょっとした口論になって家を飛び出したため、父親の死は相当堪えます。また、加川にしても綾子と正雄を連れてハイキングに出かけていた間に、自分の代わりに上林が消火活動をして亡くなっただけに、いくばくかの罪悪感が伴います。

 

それでも、加川と綾子の仲はより親密になり、由紀江が上林家に下宿したことによって、實ともいいムードとなります。ところが、彼女の就職先を巡って、またしても価値観の対立が生まれます。固い仕事を勧める加川と綾子に対し、實は金の稼げるキャバレーの仕事を推すのです。由紀江は両者の板挟みになり、翌朝置手紙を残して上林家を出て行ってしまいます。

 

でも、由紀江は義理堅く、實の推薦したキャバレーにホステスとして勤めるのですよ。ところが、キャバレーのオーナーは好色な男で、早速由紀江に目をつけ、情婦がいるにも関わらず、彼女の体を奪ってしまいます。オーナーの濱田は表向きにはキャバレーや喫茶店を経営していることになっていますが、裏では麻薬密売のボスとして君臨しています。悪役のボスを演じさせると、やはり田崎潤は貫禄ありますねぇ。

 

實は濱田に喫茶店の図面を届ける際に、偶然由紀江と再会します。彼女の事情を聞き、實は二人で逃げようとしますが、組織の一味に捕らえられ、倉庫でリンチを加えられます。一方、加川は麻薬の売人の後を追った結果、アジトがキャバレーであることを突き止め、後に實や由紀江とも絡んできます。こう言った具合に、話としてはありふれているのですが、前述したように水島道太郎と香川京子の若い姿を堪能できるのが、本作の一番の美点と言えます。