馬子にも衣裳 「赤毛」を観て | パンクフロイドのブログ

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池袋 新文芸坐

永遠の映画スター 三船敏郎 より

 

 

製作:三船プロ

配給:東宝

監督:岡本喜八

脚本:廣澤榮 岡本喜八

撮影:斎藤孝雄

美術:植田寛

音楽:佐藤勝

出演:三船敏郎 岩下志麻 寺田農 高橋悦史 吉村実子 乙羽信子 望月優子 田村高廣

        岸田森 草野大悟 浜村純 岡田可愛 神山繁 伊藤雄之助 花沢徳衛 常田富士男

1969年10月10日公開

 

相楽総三(田村高廣)を隊長とする赤報隊は、官軍の先陣を切って江戸に進撃していました。赤報隊は荒垣弥一郎(神山繁)から年貢半減令の旗印を与えられ、沿道各地の貧しい百姓たちから支持を受けていました。百姓あがりの隊士・権蔵(三船敏郎)は、次の目的地が郷里の沢渡宿であることを知ると、相楽の許しを得て赤報隊の象徴である赤毛をつけて単身この地に乗込みます。

 

その頃、沢渡宿は代官(伊藤雄之助)と結託した博徒駒虎一家に支配され、民はその圧制に苦しんでいました。赤毛の権蔵は駒虎(花沢徳衛)から、年貢のカタに取られた百姓の女房や娘を女郎屋から解放、つづいて代官屋敷からは年貢米も取返します。権蔵は民にもてはやされ有頂天ですが、母親(望月優子)はそんな息子に不安を感じていました。

 

一方、この宿場には官軍を阻止せんと幕臣たちの遊撃一番隊が町人に化けて潜入していました。彼らは権蔵に居合い斬りの達人一の瀬半蔵(高橋悦史)をさし向け、駒虎は権蔵の恋人トミ(岩下志麻)をまるめこみます。権蔵はそうした裏工作を知らず、仲間を助けに行っている留守中に、官軍への献金持逃げやニセ官軍を吹聴されてしまいます。

 

権蔵は代官を問い詰めるものの、のらりくらりとかわされます。権蔵は一時民の支持を失うものの、トミの隠した500両が出てきたことで再び信用を取り戻します。彼は500両を軍資金として活用すべく、三次(寺田農)たち4人に運ばせ、本隊に沢渡宿を制圧したことを報告に行かせます。ところが、相楽はニセ官軍の汚名をきせられ既に処刑されており、三次たちを迎えたのは、白毛をかぶった官軍でした。

 

三船敏郎演じる権蔵は、陽性の上にお調子者の性格で、おまけに百姓出身。「七人の侍」における菊千代に近いキャラクターと言えます。故郷に錦を飾るつもりで帰郷すると、悪代官や十手持ちの博徒が町を牛耳っており、苦しめられている民のためにひと肌脱ぐというストーリーになっています。町の中には官軍を迎え撃とうとする遊撃一番隊が潜んでおり、彼らが物語に変化をつけて物語を更に面白くしています。

 

権蔵にはかつて結婚の約束を交わした女がいましたが、借金の片に女郎屋に売られていました。その恋人役が岩下志麻。岩下が演じると、華やかで妖艶な女になるのですが、権蔵を愛するあまり悉く彼の足を引っ張る結果になるのが、皮肉で面白いです。権蔵が赤報隊の一員として丁重に扱われるのを目にするたび、女郎に落ちた身分の差を思い知らされます。その結果、駒虎から悪魔の囁きを吹きかけられた末、権蔵を窮地に追い込むのです。また、ラスト近くにはせっかく権蔵が逃げ延びる機会がありながら、彼がトミを追ったために悲劇的な結末を迎えます。魔性の女と言うよりは疫病神ですわな(笑)。

 

その一方で、金で殺しを請け負う浪人の一の瀬半蔵が、権蔵の命を狙いながらも対決を避けようとするあたりが、殺すには惜しい奴と思わせる友情めいた雰囲気を醸し出し、物語の中で巧く作用しています。半蔵は佐幕派も勤皇派も冷ややかに見ており、ある意味、死に場所を求めているような節が見受けられます。高橋悦史は飄々とした感じでこの浪人役を演じており、儲け役と言えます。

 

本作の伊藤雄之助は老獪さと言うよりも、保身に走る狡賢さが際立ち、風向き次第でどちらにも転ぶ小物ぶりを見せつけます。先日亡くなられた常田富士男の家臣を盾にしてでも、逃げ延びようとする卑怯者っぷりがいいですねぇ。散々せこい悪事を見せつけられた分、よりあくどい奴らの手によって、因果応報な最期を遂げるのは実に快感です。

 

その反面、百姓出身の権蔵が、より良い世の中にしようと奮闘したにも関わらず、味方と思っていたはずの者たちの裏切りに遭い、無残な結末を迎えるのは何とも言えない苦い思いを残します。それでも、最後に見せる民の異様な熱気は、権蔵のしてきたことは決して無駄ではないことも伝わってきます。息子を失って踊り狂う母親を見ているうちに、全く違う状況ながら何故か、ポン・ジュノの「母なる証明」のラストが思い浮かんできました。