シリーズ最終作の「警視庁物語 行方不明」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

警視庁物語 DEKA-SPIRITS より

 

 

製作:東映

監督:小西通雄

脚本:長谷川公之

撮影:山沢義一

美術:田辺達

音楽:菊池俊輔

出演:南廣 堀雄二 神田隆 花沢徳衛 山本麟一 須藤健 今井健二 大村文武 加藤嘉

1964年12月5日公開

 

大和皮革の技師、松井、小山の二人が、一夜にして突然行方不明になりました。部長の川原(加藤嘉)からの捜索願により、ただちに警視庁捜査一課が聞き込みを開始します。二人はその夜遅くまで残業をしており、現場からは血液反応が認められました。松井は専門学校卒で最近妻(木村俊恵)と別れ、アルサロの女給すみ子(小林裕子)に入れ込んでいました。

 

一方小山は大学卒で会社からイタリアに留学させてもらい、専務の娘との結婚話が進んでいました。そのことから日ごろ小山は松井のねたみを受けていました。さらに、失踪前夜に駅で松井らしき姿を見たという目撃者が現れ、捜査本部は松井を小山殺しのホシとにらんで捜査にあたります。

 

しかし、小山の死体は依然として現れませんでした。そんな折、小山の本籍宮崎からの照合により、本物の小山は旭化学に勤務していることが判明します。刑事たちは旭化学を訪ね、当の小山に顔写真を見せると、写真の人物は小山の同級生で、同姓の庄太である証言を得ます。庄太は大学を中退し学歴から本籍まで詐称して小山になり変っていたのでした。更に、皮革工場の濃硫酸の液体の中からは松井らしき人物の人骨が発見され、小山庄太を容疑者として再捜査します。

 

その後、小山は会社の女子社員の美代(水上竜子)と関係を持っていた川原を脅して、イタリア留学を推薦させた挙句、美代まで自分の女にしてしまったことも明るみになります。やがて戸川主任(神田隆)は、美代から小山が喫茶店で待ち合わせをしていることを聞き、部下と共に喫茶店を張り込むのですが・・・。

 

シリーズ最終作となる「行方不明」は、学歴詐称が発端となって事件が起き、犯人や関係者のみならず、刑事たちもホロ苦い結末を迎える物語になっています。当時は現在のように猫も杓子も大学に行っている訳ではなく、大学出はそれなりに価値があったことを偲ばせます。失踪事件は昔も今も警察が熱心に捜査してくれる案件ではなく、捜索願を出した川原が警察とコネがあったおかげで、捜査一課が例外として扱ってくれるあたりなかなか芸が細かいです。

 

また、刑事たちが捜査に当たっていく中で、高度経済成長期の東京の街並を目にすることができるのも貴重と言えます。敗戦から20年も経っていないのに、既に犬の美容室があり、男の散髪代が150円で済んだ時代に、トリミングや爪の手入れまで含め3000円を超える金額のかかるワンチャンに、花沢徳衛演じる林刑事が苦笑いするなど、中間層が充実していた時代でも、それなりに格差があったことを実感させます。

 

ミステリー好きとしては、加害者と思われた人物が実は被害者であることが判明し、これを境に一気に捜査が動き出すあたりにワクワクさせられます。このシリーズの一番の強みは、監督が代わっても一定のクォリティを保っている点。これは、シリーズ全般に関わっている長谷川の公之の脚本の功績が大きいでしょう。

 

本作もシリーズ最終作だけあって、過去の蓄積が物を言い、素人目に観ても捜査手順に全く無駄がなく、感心させられます。そして、何より神田隆を始めとするレギュラー陣の息の合ったコンビネーションが、刑事ドラマにリアリティを与えています。東映のシリーズものの中では地味な存在ですが、もっと評価されて然るべきシリーズと思います。