シネマヴェーラ渋谷
フィルム・ノワールの世界Ⅱ より
製作年:1946年
製作:アメリカ
監督:ロバート・シオドマク
脚本:アンソニー・ヴェイラー
原作:アーネスト・ヘミングウェイ
撮影:ウディ・ブレデル
音楽:ミクロス・ローザ
出演:バート・ランカスター エヴァ・ガードナー アルバート・デッカー エドモンド・オブライエン
1953年4月24日公開
ブレントウッドのガソリン・スタンドに勤めるスウェード(バート・ランカスター)が、ある日2人の男に射殺されました。スウェードに保険がかけられていたため、保険会社の調査員リアダン(エドモンド・オブライエン)が調査を開始します。やがて、興味深い事実が次々に出てきます。スウェードは元々ボクサーでしたが、窃盗罪で3年の刑を受けていたことが判明します。
リアダンは当時彼を受け持った刑事ルビンスキー(サム・レヴェン)を訪ね、スウェードのことを色々質問します。スウェードは以前ルビンスキーの妻リリー(ヴァージニア・クリスティン)と恋仲でしたが、暗黒街のボスであるコルファクス(アルバート・デッカー)の情婦キティ(エヴァ・ガードナー)に惹かれて、リリーを捨てた経緯がありました。その後スウェードはキティの窃盗の罪をかばって、自ら犯人と名乗り服役したのです。
更にリアダンは、獄中でスウェードと一緒だった老人チャールズトン(ヴィンス・バーネット)に会い話を聞きます。チャールズトンの話から、スウェードは出所後、コルファクス一味と一緒に帽子会社の給料強奪に加わったものの、彼らに裏切られ、その腹いせに盗んだ金を全て奪って逃げたことを知ります。しかし、リアダンは一連の犯罪には裏があると読み、ルビンスキーと共に、コルファクス一味の行方を追います。
アーネスト・ヘミングウェイの短編「殺し屋」を膨らませ、保険会社の調査員を介して、元ボクサーが殺し屋に命を奪われた顛末を描いています。冒頭からスウェードを殺しに来た二人の男が、ダイナーにいた従業員と客を陰険にいたぶる描写で、重苦しい空気が立ち込めます。個人的にはスウェードが殺されるまでの冒頭の数分が、一番の見どころだったように思います。
犯罪の裏に女ありの典型的なフィルム・ノワールのパターンで、愚直なまでに悪女を愛した挙句、裏切られ、身の破滅を招くスウェードが何とも哀れです。彼に想いを寄せるリリーと一緒に招かれたパーティーで、キティと出会ったのが運の尽き。リリーも結構いい女なのですが、スウェードが一瞬にして心を奪われるのが納得するほど、エヴァ・ガードナー演じるキティの妖艶さには説得力があります。フィルム・ノワールは、華のある悪女が登場すると話も活気づきますね。
リアダンは腕利きの保険調査員で、保険額の大小に関わらず、興味のある調査にはのめり込むタイプ。彼の上司は費用対効果の合わない調査を続けるリアダンには渋い顔なのですが、仕事のできる彼に辞められても困るので、ある程度の裁量を与えています。リアダンの調査のおかげで、別件で支払った保険金も取り戻せたのですから、両者ともウィンウィン。最後に上司がリアダンを労って、長期休暇を与えるかと思わせて、普通の休みだったというオチで締めくくるのも笑わせてくれます。