シネマヴェーラ渋谷
羽仁進 レトロスペクティブ 映画を越境する より
製作:オールスタッフプロダクション テアトルプロダクション
監督:羽仁進
脚本:山田宏一 渡辺武信 羽仁進
撮影:奥村祐治 つじゆうすけ
美術:和田誠 灘本唯人 山下勇三 白井宏信
音楽:いずみたく
出演:ピンキーとキラーズ 佐良直美 由紀さおり 前田武彦 土居まさる 大矢茂 左卜全 藤村有弘
1970年7月18日公開
田舎から上京してきた陽子(今陽子)は、東京の人々があくせく動き回る姿にただ驚くばかり。就職した迷竹ラーメンでは、社長の迷竹(前田武彦)が女性を自分の意のままに操る暗示用テープの製造に余念がありません。迷竹はファッションモデルの柚木かおり(由紀さおり)にご執心で、彼女にテープをあてがい、ゆくゆくはかおりとの結婚を計画していました。
ある日、陽子は休日に東京見物に出かけますが、満員電車の中でスリの疑いをかけられます。そんな陽子の窮地を救ってくれたのが動物園の主治医の獅子野(大矢茂)。イケメンの彼に、陽子はたちまちホの字。その頃、動物園ではカバのザブ吉が不眠症にかかっており、獅子野と恩師の自然丈博士(左卜全)が治療にあたっていました。二人は迷竹ラーメンの工場から流れてくる怪電波が原因であることを突きとめます。
そんな折、陽子は深夜の工場に忍び込み、迷竹たちの暗示用テープの製造現場を目撃したことから工場にいられなくなります。獅子野は路頭に迷う陽子にアニメのアテレコを紹介し、陽子は益々獅子野に熱を上げます。獅子野は柚木かおりとつき合っていましたが、最近彼女は獅子野を避けている様子。陽子には恋のライバルがいなくなるチャンス。しかし、獅子野の意気消沈した姿を見ていると喜ぶ気持ちにもなれず、かおりの様子がおかしいのは迷竹が製造するテープに原因があると睨み、二人のために一肌脱ごうとしますが・・・。
60年代の終わり頃にピンキーとキラーズ主演のテレビドラマ「青空にとび出せ」をほんの少しだけ見ていたことがあり、このドラマ出演が下地となって、本作に繋がったのかとぼんやりと考えました。当時の芸能界で活躍していた面々(「巨泉×前武 ゲバゲバ90分」の出演者多し)が出演しており、自然と子供の頃の記憶が甦り郷愁を誘われます。いずみたくの音楽も佳曲が多く、歌謡曲で育った世代には耳に馴染みます。
映画評論家の山田宏一と建築家の渡辺武信が脚本を手掛けただけあって、従来のミュージカルとは一味違う自由度の高い映画になっています。野外での撮影が多いのも、70年代初期の東京の風景やファッションをふんだんに見られるので個人的には嬉しい限りです。当時の世相を反映させ、光化学スモッグを皮肉り、満員電車で駅長ごと押し込められるギャグ、前田武彦のマエタケをもじって迷竹(マイタケ)ラーメンと名付けるセンスなど、遊び心も溢れています。
ヒロインは好きな男のために、迷竹の毒牙からかおりを守ろうとすれば、二人が結ばれてしまうジレンマの立場におり、どちらに転んでも彼女にとっての真のハッピーエンドとはなりません。その意味では難しい決着の仕方なのですが、今陽子のカラッとしたキャラクターが映画の結末を救っています。