航空パニック映画の先駆け?「高度7000米 恐怖の四時間」を観て | パンクフロイドのブログ

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東京国立近代美術館フィルムセンター 小ホール

アンコール特集

生誕100年 木下忠司の映画音楽 より

 

 

製作:東映

監督:小林恒夫

脚本:舟橋和郎

撮影:藤井靜

美術:藤田博

音楽:木下忠司

出演:高倉健 今井俊二(今井健二) 大村文武 中原ひとみ 小宮光江 久保菜穂子 丘さとみ

        梅宮辰夫 神田隆 風見章子 加藤嘉 殿山泰司 岡村文子 岸井明 増田順司 左卜全

        トニー谷

1959年9月30日公開

 

13時50分羽田発仙台経由札幌行“ダグラスDC-3”が飛び立とうとしていました。機長の山本(高倉健)は、飛行時間6000時間以上をもつエキスパートで、妻を亡くし現在は独り身です。副操縦士の原(今井俊二)は、その山本の妹(丘さとみ)と恋愛中。スチュワーデスの大野(久保菜穂子)と並木(小宮光江)はどちらも山本に気がある様子。

 

一方、自動車の販売をしている和子(中原ひとみ)、新聞記者の小林(加藤嘉)とその妻(風見章子)、東京見物を楽しんだ老夫婦(左卜全・岡村文子)が空港ロビーで待つなか、テレビに殺人強盗現場が映し出されます。兇器は拳銃、容疑者の左足は義足であることが判明し、木田正太郎が指名手配されます。やがて乗客の搭乗も終わり、ダグラスDC-3は離陸します。

 

乗客の和子は、同席した男(大村文武)の左足が義足であることに気づき、男がトイレに行っている隙に、背広のネームを確かめます。男は石川と名乗っていましたが、背広には木田の名前が縫われていました。ところが、木田は和子が背広を調べているところを目にして、彼女に拳銃を突きつけて動きのとれないようにします。経由地の仙台で、和子は逃げる機会を窺うものの、木田に悟られ機会を逸します。

 

再び機は離陸し、スチュワーデスの並木が手にしていたりんごが、木田の足許に転がります。並木が拾おうとした時、木田の拳銃を目にします。並木に悟られた木田は操従室に駈け込み、機長に航路を変更するよう要求します。山本は、乗客に危害を加えないことを条件に、八戸空港で木田を逃すことを約束します。

 

機は八戸空港に向かいますが、空港には警察が待機しており、木田はその姿を目ざとく見つけます。約束が違うと木田は拳銃を発射し、今度は海岸線に不時着することを要求します。しかし、海岸線には着陸に必要な走路の長さがなく、乗客の安全を考えた山本はイチかバチかの賭けに出ます。

 

ある意味、航空パニック映画エアポートシリーズの先駆けとも言える作品です。乗務員、乗客を手際よく紹介していく序盤から、強盗殺人犯が飛行機に乗り込み、機内を恐怖に陥れるまでを、無駄のない演出で引っ張っていきます。

 

初期の健さんは、結構やんちゃな面を強く押し出す傾向がありましたが、本作では冷静沈着で、亡くなった女房に義理立てして、一切女を寄せつけないストィックな男を演じています。そのため、健さんに気のある久保菜穂子と小宮光江は失恋状態。健さんがストィックな分、今井俊二が恋愛方面を一手に引き受けます。

 

ただし、飛行距離3000キロを超すまでは、結婚はお預けと宣言するのですから、こちらも禁欲的な顔を覗かせます。強面の悪役として定評のある今井だけに、この映画での可愛らしさが際立ちます。中原ひとみと辰ちゃんは、私生活では恋人なのに、営業ではライバル同士という間柄。中原の割り切りぶりと、彼女に振り回される辰ちゃんの姿が微笑ましいです。

 

大村文武は厭味ったらしい憎まれ役がおハコですが、本作では義足の凶悪犯を冷徹に演じています。落選続きの政治家の殿山泰司、せっかく夫婦旅行を楽しもうとしたのに記者魂を発揮する加藤嘉と糟糠の妻の風見章子など、脇役陣の充実ぶりも目立ちます。

 

どうやって拳銃を機内に持ち込めたのかというツッコミどころはあるものの、一難去ってまた一難のスリル、犯人に対応するパイロットとスチュワーデスの奮闘など見どころは多いです。そして、この内容を76分にまとめた小林恒夫監督の手腕も大したもの。まだ私が生まれる前の羽田空港の内外の映像を見られたのも貴重な体験でした。