「暗黒街最大の決斗」「暗黒街最後の日」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

OIZUMI 東映現代劇の潮流Ⅱ より

 

暗黒街最大の決斗

 

 

製作:東映

監督・脚本:井上梅次

撮影:星島一郎

美術:藤田博

音楽:鏑木創

出演:鶴田浩二 高倉健 大木実 梅宮辰夫 曽根晴美 南廣 佐久間良子

    久保菜穂子 安部徹 植村謙二郎 薄田研二 神田隆 伊沢一郎

1963年7月13日公開

 

アメリカ帰りの三鬼(大木実)は国際賭博組織と手を組み、闇カジノを全国に作ろうと企んでいました。一方、大親分衆13人で構成された睦会も、縄張りを荒らされて黙っている筈もなく、両者は一触即発状態にありました。そんな折、日本進出を狙うアメリカのシンジゲートが、莫大な資金を携えた数名の監視員を、三鬼のもとに送って来ます。その一人健一(鶴田浩二)は、三鬼がアメリカにいたときの仲間でした。

 

ところが、三鬼の指示で健一を羽田へ迎えに行った石神(室田日出男)が、何者かに左腕を撃たれる事件が起きます。三鬼は睦会の老松組7代目・松岡(薄田研二)の供養のために行なったと推測します。その頃、老松組では7代目の葬儀が行われていました。その席で老松組の元代貸・鶴吉(植村謙二郎)の口から、8代目を松岡の次男・真平(高倉健)に継がせることが報告されます。

 

ところが、新興やくざの郷田(安部徹)は、真平の8代目襲名に異議を唱えます。その結果、真平は8代目に相応しい親分であることを証明するために、三鬼との折衝を任されます。真平は単身三鬼の事務所に赴き、三鬼から石神を撃った下手人を出せば、話に応じるという言質を得ます。その頃、健一は松岡の墓参りに訪れた際、鶴吉の娘・美弥子(佐久間良子)から、石神を撃った下手人は郷田組の身内らしいと聞き、二人組の犯人を捕えて、証拠の拳銃と共に老松組に投げ込んでやります。

 

真平は郷田の子分を三鬼の前に連れて行くものの、殺させようとはせずに犯人と証拠の拳銃を警察に引き渡します。三鬼は中京地区にも手を伸ばし始め、睦会の親分衆の中からも真平への風当たりが強くなりだします。話をつけようにも、三鬼は事務所にいる時は居留守を使い、住まいは用心のために誰にも知らせていません。ようやく三鬼がプールにいる情報を得た鶴吉は、息子の好吉(梅宮辰夫)に、三鬼を始末するよう言い含め送り出します。好吉はプール脇のチェアで寛ぐ三鬼に拳銃を向けますが、側に居た健一の呼びかけに一瞬怯んだ隙に、三鬼の子分たちに銃弾を浴びせられます。

 

健一は老松組を訪れ、好吉の亡骸に手を合わせた後、三鬼のクラブに戻り、一人で飲んでいた三鬼の情婦・ルミ(久保菜穂子)に自分の過去を語りかけます。健一が真平の兄であること、本来老松組の跡目を継ぐはずだったこと、健一の許婚が郷田と結婚させられそうになり、そのことを苦に自殺したこと、許婚の自殺によってやくざを嫌いアメリカに渡ったこと。そこに三鬼が帰ってきて、健一はアメリカに戻ることを告げます。

 

一方、息子を殺された鶴吉は、単身三鬼の事務所に乗り込みに行きます。父親の只ならぬ様子を感じ取った美弥子は健一に電話し、健一は三鬼に鶴吉に手を出さぬよう念を押します。ところが、郷田は鶴吉がハジキを持っているような口ぶりで電話してきたため、三鬼は疑心暗鬼となり、鶴吉がドスを抜こうとした瞬間、子分たちが射殺してしまいます。その場に駆けつけた健一は、自分よりも郷田の言葉を信じた親友に失望し、これで仇同士になったと言い残し去っていきます。

 

鶴田浩二、高倉健、大木実の3人に焦点が当てられた話ですが、個人的には最小限の手間で最大限の利益を得る、安部徹の古狸のやくざに目が行きました。三鬼との不利な交渉も、警察に闇カジノに踏み込まれたことを利用して、五分に戻してしまうところなど、商売人としてもやり手なのです。13人の親分衆で構成された睦会に入れさせろと主張するのも分からないではありません。

 

国際的賭博組織をバックにした新興勢力と旧勢力のやくざ組織の対立の構図で話が進んでいきますが、実はやくざ組織の古い体質から脱却しようとする話でもあります。そのために、わざわざ鶴田浩二にやくざ否定のセリフまで言わせています。当初、健一がやくざを嫌う理由は具体的に示されません。登場人物たちの因果関係を小出しにしながら、観客にも健一の過去の経緯が徐々に見え出す演出はなかなか巧みです。

 

洋風の賭博で暗黒街の新しい秩序を構築しようとするのが三鬼ならば、従来のやくざ組織を守ろうとするのが、健一と真平の叔父貴にあたる鶴吉。彼は老松組を維持するため、真平を8代目に据え、自分の息子の好吉をヒットマンに仕立て三鬼の命を狙い、最後は自ら三鬼の事務所に乗り込み、ちょっとしたボタンの掛け違いから無残な死を遂げます。真平や睦会のために良かれとした行為が悉く裏目に出て、真平ばかりか健一や三鬼まで危うい立場に追い込んでしまうところが、皮肉で面白いです。

 

井上梅次監督は、それぞれの登場人物の入り組んだ因果関係を手際良く解きほぐし、優に2時間を超えるほどの分量の内容を、100分ちょっとにまとめています。その分、映画の内容は濃密になっています。一度は袂を分かつ健一と三鬼が、最後に三鬼が自分を犠牲にして健一を救ったことにより、後味の良い終わり方となりました。

 

 

暗黒街最後の日

 

 

製作:東映

監督・脚本:井上梅次

撮影:西川庄衛

美術:進藤誠吾

音楽:鏑木創

出演:鶴田浩二 高倉健 三國連太郎 梅宮辰夫 丹波哲郎 佐久間良子

        安部徹 南廣 大村文武 久保菜穂子 曽根晴美 中山昭二

1962年10月12日公開

 

関東の盛り場を牛耳るマル和産業の社長だった中部(鶴田浩二)が刑期を終え出所します。ところが列車内で何者かに襲われ、出迎えに来た者が命を落とします。中部の暗殺を命じたのは、マル和産業の現在の社長・星野(安部徹)でした。マル和産業は元々中部が創立し、彼が服役している間、弟分の星野に預からせていた会社です。社長に収まった星野は、中部の服役中にあこぎな方法で会社を大きくし、刑務所から戻った中部に再び社長の椅子を渡すのを嫌になっていました。

 

中部は問題を解決するため、単身星野の経営するクラブ「モナコ」に赴きます。しかし、星野が「社長は株主総会の決議による」と主張したため、両者の関係は決裂します。一方、関西犯罪シンジケートのボス三鬼(丹波哲郎)は、中部と星野の対立を耳にすると、マル和産業内のゴタゴタに乗じ、関東の縄張りを得るため、子分を大挙引き連れ上京します。

 

暗黒街の不穏な動きを察知した警視庁は、芥川検事(三國連太郎)を主任に据えてマル和の内偵を進めます。芥川は中部とは昔からの親友で、中部の別れた妻・洋子(久保菜穂子)に、今でも微かな恋心がありました。洋子には中部との間に生まれた一人息子・正樹がいます。彼女は息子の将来を案じ、服役中に中部と離婚し、出所後も正樹に逢わせないようにしていました。洋子はクラブ「モナコ」のマダムとして働いており、中部と星野の間でも微妙な立場にいます。

 

やがて、マル和の社長の座を決定する定期株主総会の日がきます。その席上、星野は中部と芥川検事が親友同士であることを指摘。それに対し中部は、星野が関西の三鬼と結託して、縄張りを分割しようとしていることを暴露します。場内騒然となるうちに総会は流会となります。星野は中部の一人息子正樹を誘拐し、マル和産業の譲渡を迫ります。

 

安部徹の憎々しい悪役ぶりは安定感があります。また、安部と鶴田浩二を天秤にかけて、漁夫の利を得ようとする丹波哲郎のしたたかな貫禄もさすが。鶴田の本作でのキャラクターは、任侠映画と若干異なり、多少の欲を持った人物を演じています。創立者としての意地もあり、出所するや、安部に対して社長の椅子を譲れと迫ってきます。

 

一方安部も、簡単に引き下がるタマではありません。堅気の会社なのだから、株主総会で決めようと、鶴田の要求を撥ねつけます。通常の企業であれば、安部のほうの言い分が通るのですが、あいにくあくどいやり方で商売を広げていった経緯があるため、すんなり納得という訳にはいきませんね。話し合って分からなければ、暴力で決着をつけようとするのは、やくざ同士の自然のなりゆきで、ド派手な銃撃戦を繰り広げます。

 

クライマックスとなるこの場面は、「暗黒街最大の決斗」と同様に派手。ちょっとお目にかかれない規模で、次々と人が殺されていきます。どちらかと言うと、トンデモ描写に近い演出がされています。話はテンポ良く進められていき、一人息子への想いも、適度なところで切って、次に進むドライなところがあります。監督が井上梅次のせいか、東映で撮っていてもどことなく日活の匂いが感じられます。