大藪春彦ワールドに若大将のノリ 「顔役暁に死す」を観て | パンクフロイドのブログ

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神保町シアター 【没後10年 作曲家 池野成の仕事】 より



顔役暁に死す


製作:東宝監督:岡本喜八

脚本:池田一朗 小川英

原作:大藪春彦

撮影:太田幸男

美術:村木忍

音楽:池野成

出演:加山雄三 水野久美 ミッキー・カーティス 平田昭彦

    田崎潤 中丸忠雄 田中邦衛 島崎雪子

1961年4月16日公開


映画音楽の作曲家に焦点を当てた企画は珍しいです。池野成は伊福部昭に師事し、日本映画を代表する監督の作品の音楽を数多く担当してきました。


アラスカの森林で伐採監督として働いていた佐伯次郎(加山雄三)が、五年ぶりに故郷の倉岡市に戻ってきました。ガソリンスタンドでチンピラ二人組を倒した後、次郎はガソリンスタンドの店主から倉岡市長だった父の大三(林幹)が半年前に殺されたことを知らされます。実家に戻ってみると、父親の後妻の久子(島崎雪子)がいました。父親が再婚したことを知らされていなかった次郎は、少しばかり驚きます。


彼は警察を訪ね、顔見知りの細木警部(田崎潤)から、父親が殺された時の状況を知ります。大三は市長再選の祝賀パレードで目抜き通りの空ビルから狙撃され、後にやくざが自首してきました。次郎は腑に落ちないものを感じ、独自で父親の殺された真相を解明することを決意します。


倉岡市は後藤組と半田組の抗争で、近県から危険な街とレッテルが貼られていました。現市長の今村(柳永二郎)は為すすべもなく、暴力団の争い事には目をつぶっていました。やがて、元市長の息子である次郎の出現が、二つの組に波紋を呼びます。そして、次郎に真犯人の残した指紋を売りたいという電話がかかってきます。


次郎が約束の場所に行くと、そこには半田組の幹部の西条(中丸忠雄)、後藤組の殺し屋・松井(中谷一郎)、警官の関(山本廣)たちが鉢合せをします。松井は次郎にどことなく親近感を抱き、後藤(平田昭彦)の意に反して次郎を生かしておきます。次郎は父を射殺したウィンチェスター銃が盗難された銃であることを突き止め、持主の滝川(村上冬樹)と接触します。滝川の話によれば、銃を盗んだのは家出した娘・淑子(水野久美)の恋人で、数カ月前に事故死したことを聞かされます。


その事実を知った次郎は、早速淑子の働くキャバレーカスパに乗り込みます。淑子はカスパの経営者が後藤であることを伝え、久子が度々後藤と会っていることを教えました。殺された市長の未亡人と暗黒街のボスとの只ならぬ関係に疑問をもった次郎は、後藤に迫りますが悪徳刑事の根本(堺左千夫)に妨害されます。


やがて次郎は、電話で指紋の取引を持ち掛けた人物が警官の関であったのに気づきますが、関は次郎に証拠の薬莢を残して殺されます。次郎は細木警部に薬莢を渡し、根本が後藤組とツルんでいることを仄めかします。細木は次郎に、彼の父親を狙撃したビルに松井がいたことを洩らします。ところが、次郎が持ち込んだ指紋のついた薬莢を、鑑識課に検査を依頼した直後、悪徳をあばかれた根本刑事は細木を襲って薬莢を奪い、罪を次郎にかぶせてしまいます。


次郎は警察から追われ、淑子のアパートを訪ね匿ってもらいます。その時、次郎は淑子の部屋にあった写真から、彼女のパトロンが誰であったかを知ります。一方、根本は半田組に殺され、薬莢は半田(田中邦衛)の手に渡ります。次郎は半田に薬莢の取引を申し入れ、深夜の遊園地で会う約束をします。その頃、後藤組も遊園地で次郎を待ち伏せていました。


銃弾戦の末、松井は西条に撃たれ、死ぬ間際に意外な真相を語ります。後藤の命令で大三を狙うため、空きビルに忍び込んだ際、彼より先に目的を果たしたもう一人の男がいたと言うのです。後藤も半田も命を落としますが、市長殺しを指示した真犯人はまだ生きています。次郎は淑子のアパートでその人物と対峙します。


大藪春彦の原作にも関わらず、加山雄三が若大将のキャラクターで芝居をするものですから、ハードボイルドの雰囲気はあまりありません。その代わり、岡本喜八の遊び心が加わっているため、大藪春彦の世界とは異質の組み合わせが上手く作用して、面白い作品になっています。若大将が父親の死の真相を掴むまでを追っていく物語で、ミステリーとしては犯人が明らかになるまでの伏線が弱いですが、サスペンスよりも若大将の活躍をメインに見せる映画なので特に問題はないでしょう。


後藤組と半田組に取り入り、双方から情報を引き出し、双方に情報を流す新聞記者のミッキー・カーティスの蝙蝠ぶりが愉快であり、儲け役と言えます。また、中谷一郎の殺し屋は、佐藤允が演じたとしても様になり、「ヴェラクルス」のバート・ランカスター、日活アクションの宍戸錠などに連なるキャラクターとなっています。


とにかくテンポの良さが取り柄の作品で、最後まで飽きさせません。ハードボイルド映画を期待すると肩透かしを食らいますが、若大将のアクション映画として気楽に観る分には、丁度良い作品かもしれません。