長谷部安春の演出が光る 「縄張はもらった」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

ラピュタ阿佐ヶ谷 【白鳥あかね スクリプター人生】 より



縄張はもらった


製作:日活

監督:長谷部安春

脚本:石松愛弘 久保田圭司

撮影:上田宗男

美術:佐谷晃能

音楽:鏑木創

出演:小林旭 宍戸錠 二谷英明 川地民夫 太田雅子(梶芽衣子)

    岡崎二朗 葉山良二 高品格 郷鍈治 藤竜也 深江章喜

1968年10月5日公開



8年の刑期を終えた寒河江次郎(小林旭)が刑務所から出所すると、日野(宍戸錠)が待ち受けていました。日野は8年前の出入りで次郎に殺された弟の仇を討とうとしていたのです。そこへ日野の情婦(久本有紀)が止めに入り、勝負はお預けとなります。娑婆に戻った次郎は、組長が入院している病院に赴くものの、一文字一家は既に解散しており、現在は狭間組が一文字一家の組長の面倒を見ていました。狭間組は「殺しの狭間」と呼ばれる武闘組織で、地方都市に着々と進出をかけていました。


次郎は組長が世話になっている手前、狭間組に挨拶に行き、そこで新興工業地帯を巡って、勢力争いをしている青葉会と遠野一家とを全滅させる話を持ち掛けられます。抗争を激化させ、首尾よく二つの組織を壊滅させた暁には、その土地を一文字の縄張りにして良いと言うのです。次郎は組長の了承を取った上で、狭間組の話に乗ります。


こうしていかさま博徒の新庄(藤竜也)、役者くずれの女たらしの鳴瀬(川地民夫)、落ちこぼれ歌手の中津(郷鍈治)などが、兵隊として集められます。そして狭間組からも、お目付け役として箱崎(二谷英明)が送られてきます。更に狭間組の思惑から、次郎を狙う日野までもが仲間に加わることになります。


青葉会は東日機械の用地買収に反対する豪農の娘・佐衛子(太田雅子)を車の中で犯すなど、荒っぽいやり方で土地の買収を迫り、一方昔かたぎの遠野一家は、農家の人々を守る名目で、買収を阻止しようとしていました。次郎は二つの組織の対立をエスカレートさせ、その隙に新たに設立した不動産会社を通じて、土地を持っている地主たちに買収を説得していく計画を立てます。


青葉会は土地を売って成金となった農民たちを集めて賭場を開き、いかさま博奕で大金を巻き上げいました。次郎は新庄に遠野一家の客人になりすまし、いかさま賭博の腕を見せた上で、青葉会の賭場でイザコザを起こすよう仕向けます。また中津に命じて、青葉会の幹部を殺させ、遠野一家に逃げ込むよう指示をします。


その結果、青葉会は幹部が殺されたことへの報復として、遠野一家の親分を仕留め、益々抗争に拍車がかかります。東日機械は一連の事件を重視し、青葉会との取引を一方的に断ってきます。その頃、新庄は青葉会に捕まり凄まじいリンチを受けていました。「裏で糸を引いているのは誰だ?」と問う会長の北方(葉山良二)にも口を割らず、新庄は無情にも殺されてしまいます。


その後、次郎は農民たちの信頼を得て、土地を手放すことに同意させることに成功します。そして、土地を売った農民たちには、その土地に新しくできる東日機械の工場の仕事に関わらせる青写真を描いていました。その一方で、一文字一家の看板をあげることはあきらめ、土地を売ってくれた農民に報いるため、東日機械から出させた金で、新たに起こした事業の株主にさせる配慮もします。ところが狭間組は、仮釈放中の北方を舎弟にした上、青葉会を使って次郎の新事業の建設会社から、株主である農民たちを追い出そうと企みます。当初の約束を反故にされた次郎は席を立ち、狭間組に対してあからさまに反旗を翻す行動に出ます。


この映画を一言で言うならば、ムショ帰りの男が、傭兵部隊を率いて、二つの対立する組織を壊滅させたものの、雇い主が約束を違えたために、牙を剥く物語です。長谷部安春は手際よく登場人物の見せ場を捌き、シャープな演出でもって、非常にテンポの良い映画に仕上げています。集団抗争劇としての話の運び方も巧みで、上質なやくざ映画であることは間違いありません。


それを踏まえた上で、最後の殴り込みのシーンで、敵方に小林旭や宍戸錠に対抗できるタマがいなかったのは惜しまれます。一番の適任は二谷英明であり、小林旭の心情に共感しつつも、組織の掟に従うことへの葛藤に揺れる男心を示せば、様々なドラマも生まれたでしょう。代替案としては葉山良二と高品格の線もあり、青葉会が狭間組の傘下に入った伏線も効いてきます。残念ながらこの三人は、それ以前の段階で舞台から降りてしまっています。ラスボスの盾になる人物がいないと、若干興は削がれます。


太田雅子こと梶芽衣子は、やくざの餌食になる農家の娘で、走っている車の中でレイプもされます。、清楚でありながら穢れてしまった娘役は、その後の「さそり」シリーズで生かされてきます。