建設会社の社長スディープ(スディープ)は、気に入らない奴は殺すという手口で大金を荒稼ぎする強欲な野心家。しかもセクシーなチョイ悪オーラで次々と女性をモノにする女好き。一方、お調子者の貧乏青年ジャニ(ナーニ)は、向かいの家に住んでいる美人のビンドゥ(サマンサ・ルス・ブラブ)に2年前から片想い中。ジャニはあの手この手でアピールを続けているが、会話すらろくにしてもらえない。しかしビンドゥも、内心ではジャニのことを想っていた。ある日、ビンドゥはスディープと出会う。ひと目でビンドゥの美しさに魅了されたスディープだったが、ビンドゥがジャニに惹かれていて自分のことなど目に入っていないことに気づく。逆恨みを買ってしまったジャニはスディープの手下に誘拐され、スディープの手でなぶり殺されてしまう。ところが不思議な力によって、死んだジャニの魂はなんと一匹のハエに生まれ変わった。ハエになったジャニは愛するビンドゥを守るため、憎きスディープに復讐するため、小さな身体で人間との戦いに挑む。
製作:インド
監督・脚本・原作:S.S.ラージャマウリ
音楽:M.M.キーラヴァーニ
出演:スディープ サマンサ・ルス・ブラブ ナーニ
2013年10月26日公開
ジャニは向かいのアパートメントに住むビンドゥに2年間も恋心を抱いていますが、彼女はツレない態度を示します。しかしジャニは超プラス思考の持ち主で、彼女が彼を無視する行動を取っても、常にポジティブに捉えてしまうのです。ジャニはストーカーすれすれの行為をしており、彼に気のない女性ならば訴えられるところですが、ビンドゥは気のない素振りをしながらも、彼の姿を見ないと落ち着かないまでに、彼女の中でジャニの存在は大きくなっています。ビンドゥはマイクロアートを得意としており、極小の装飾品を作っています。また、チャリティ活動にも熱心で、ジャニが彼女に惹かれるのは美貌だけでなく、優しい面があることもわかってきます。
一方ヤリ手の実業家スディープは、仕事以外に女性の方もお盛んで、取引先の重役の女房を垂らしこんで契約を成立させています。そして彼が目をつけた女は必ず落とすと豪語するのです。そんなスディープの前にビンドゥが現れます。彼はチャリティ活動の寄付を利用してビンドゥと親しくなろうとします。ところがビンドゥはスディープと二人きりで食事をしていても、ジャニのことが気にかかりスディープとの会話は上の空。彼女に好きな男がいると気づいたスディープは、ジャニの存在を知り彼を殺してビンドゥをモノにしようとします。ジャニはスディープに殺されたものの、ハエとなって生まれ変わり、ビンドゥをスディープの魔の手から守ると共に、ハエの長所を生かして彼に復讐を企てます。
愛しい女に自分の存在を知らせることができないもどかしさ、自分を葬った者に違う形となって復讐するあたりは、デミ・ムーア主演の「ゴースト ニューヨークの幻」のプロットに共通するものがありますが、一番異なる点はもちろんハエに生まれ変わる点(笑)。ジャニがハエになってからの展開は、一段とおバカ度が増します。ただし、すぐに復讐に移る描写をするのではなく、ハエになったことによりジャニが受難する様子を見せて、ハエになったメリットと弱点を観客に十分体感させてから行動していくあたりが、用意周到に計算されています。
最初のうちジャニは小さい身体とすばしこさを生かして、スディープを精神的に参らせいきます。それが次第に過激さを増して、彼をあわや事故死しかけるほどに追いつめていきます。インドでの上映ではインターミッションがあり、ハエとなったジャニが事故車の窓に「お前を殺す」とメッセージを残すところで休憩が始まるタイミングは最高です。「ロボット」にしろ「きっと、うまくいく」にしろ、インド映画の観客の興味を繋ぎとめるテクニックは非常に巧みです。
やがて、ビンドゥはジャニがスディープに殺され、ハエとなって生まれ変わったことを知ります。彼が自分の存在をビンドゥに知らせる方法も、彼女の涙を利用して工夫が凝らされています。ビンドゥはマイクロアートの技術を生かして、ジャニに殺虫スプレーから身を守るゴーグルや特製の爪を作って、最凶のハエに仕立てます。また、ジャニも筋トレを行なうなどスディープへの復讐のための準備を進めていきます。
このような(いい意味での)馬鹿馬鹿しいほどの悪ノリぶりは鈴木則文を髣髴とさせ、観客を楽しませることに余念がありません。もちろんギャグもふんだんに盛り込んでおり、スディープがジャニの計略に引っ掛かり、大きな取引の場で醜態を曝すところなど大いに笑えます。そして呪術師が操る鳥とジャニとの攻防では、スラップスティックな動きをしながら空中戦を繰り広げます。ジャニによって大金を失ったスディープは、ようやく一連の出来事が、ハエとなったジャニとビンドゥが仕組んだ罠であることを知り、ビンドゥを人質にしてジャニをおびき出します。
インド映画の割には歌とダンスシーンが控え目で物足りなく思ってしまうのは、インド映画にはSONG&DANCINGが欠かせないと刷り込みされているせいでしょうか(笑)。徹底して観客を楽しませる精神は随所に散見され、数々の馬鹿馬鹿しい描写も真剣に描写することによって、突き抜けた表現となり、ある種の感動を呼びます。普段インド映画を観ていない東映映画ファンの方たちにこそ、この映画はすごく嵌まるかもしれません。ジャニがビンドゥを助けるため、自らの命を顧みず献身的な行為をしてシンミリさせた後で、再びイケしゃあしゃあと登場するいい加減さも、この映画ならば許せてしまいます。紛れもなく愛すべきおバカ映画です。



