野川由美子のハマリ役 「河内カルメン」を観て | パンクフロイドのブログ

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神保町シアター 【春よ!映画よ!女たちの饗宴】 より


女工として働く露子(野川由美子)は、二人の男からレイプされ処女を失う。甲斐性なしの父(日野道夫)と寺の坊主(桑山正一)と関係を持って家計を支える母(宮城千賀子)にも失望し、妹の仙子(伊藤るり子)を残し、露子は大阪に出た。ホステスになった露子は客の勘造(佐野浅夫)と一夜を共にしてしまう。使い込みがバレてクビになった勘造を気の毒に思い、彼女のアパートに住まわせるものの、鹿島洋子(楠郁子)からファッションモデルに誘われ、洋子の家に住み込みで働くことになる。しかし、洋子は両刀使いであり、露子も身体を狙われ、思わず家を飛び出してしまう。洋子の家を逃げ出した露子は、偶然かつて働いていた工場の跡取り息子・彰(和田浩治)と再会し、彼のボロ家に住むことになる。しかし、一攫千金を夢見る彰のために、露子は金貸しの斎藤長兵衛(嵯峨善兵)の愛人にならなければならなかった。



パンクフロイドのブログ-河内カルメン


監督:鈴木清順

脚本:三木克巳

原作:今東光

撮影:峰重義

美術:木村威夫

出演:野川由美子 和田浩治 佐野浅夫 川地民夫

    宮城千賀子 松尾嘉代 楠郁子

196625日公開


河内の娘露子は、美しく豊かな肉体で村中の男を悩殺していました。中でも工場の息子で大学生の彰は露子に夢中であり、露子もまた彰に強く魅かれていました。しかし、村のモテない男二人に処女を奪われ、母のきくが悪坊主良巌坊と関係するのを見た露子は、レイプされたことを誰にも相談できずに、家出同然に大阪に旅立ちます。


大阪に出た露子は同級生の雪江(松尾嘉代)の世話でバーに勤めました。いやらしい男たちの中で、同郷人だという勘造は露子に惣れこみ、彼女を酒で酔わせて関係を持ちます。やがて、勘造は露子がいるバーに通うために銀行の金を使い込み、勤めていた信用金庫を解雇されてしまいます。金がなく毎晩バーの外で露子の姿を見ようと待っている勘造を最初のうちは無視するものの、情が深い露子は雨に濡れた勘造を哀れに思い自分のアパートの部屋に上げます。そして、勘造はそのまま居座ってしまうのです。


そのうち露子は鹿島洋子からファッションモデルとして生計をたてないかと誘われます。露子は洋子からホステス時代の垢を落とすように言われ、勘造と手を切る決心をします。別れ話を切り出した露子は、てっきり勘造が怒ると思いきや、逆に彼女に対し感謝の言葉を口にするので調子が狂います。「出て行くきっかけがないやないか」と露子は無理に勘造を怒るよう促します。露子の意を汲み取った勘造は怒りの演技をするものの、最後は言葉に詰まり静かに部屋を去ります。勘造役の佐野浅夫はいい味を出しているのですが、小沢昭一だったならば更に中年男の悲哀が滲み出ていたと思います。


洋子の家に移ってモデルのコーチを受ける露子は、洋子のセックスフレンドの誠二(川地民夫)から、洋子が同性愛者でもあり、露子も狙われていると聞かされ驚愕します。そしてある夜寝室を襲われた露子は、とうとう洋子のもとを逃げ出して、誠二の家にころがりこみます。その頃露子は偶然彰にめぐり会い、誠二と別れて彰のボロ家に移り住みます。


生駒山に温泉を掘ろうと野心を抱く彰のため、露子は誠二のツテを頼り、金貸斎藤長兵衛の愛人となります。長兵衛に気に入られた露子を縁に、彰は長兵衛に借金を頼みますが断わられ、あげくの果てに、長兵衛の趣味とするブルーフィルム製作に、露子の相手役として駆り出される始末。そして数日後、長兵衛は飛行機事故によって、あっさりあの世に行ってしまいます。


露子は誠二の尽力によって、マンションの権利をもらいうけ、数千万円を手にします。露子は彰が住んでいたボロ家に戻ると、壁に貼ってあったツーショット写真の露子の部分を引きちぎり、小切手を壁に刺して家を後にします。やがて、露子は彰が金のトラブルでやくざに殺されたことを知ります。


露子は故郷に着飾って帰って来ます。ところが、露子は母のきくによって、妹の仙子が良厳坊の慰み者になっているのを知ります。彼女は一計を案じ、良巌坊を金で釣り幻の滝壺に案内させます。露子は大阪に出てきても、度々山伏姿の幻影を見ていました。この期に及び露子は遂に憎むべき相手を見つけます。それは自分を売った彰でもなく、ブルーフィルムを撮影した金貸しの爺でもなく、彼女の家庭をメチャメチャにした生臭坊主だったのです。


男達に踏みにじられながらも、生来の美貌と肉体を武器に、颯爽と生きていく露子の姿が清々しく映ります。垢抜けない女工、客あしらいのうまいホステス、華やかなファッションモデル、愛する男のために家事を甲斐甲斐しくこなす主婦。いずれもその時々の状況で露子は異なる女に変身しますが、一貫して流れているのは、きっぷが良くて情の深い女です。


たとえ身体は汚されても、心までは奪わせない女の意地を見せながら、歯切れの良い河内弁で世間を乗り切っていく女を、野川由美子は生き生きと演じています。また、洋子の住居をあからさまにセットだとわかる手法で撮ったり、襖を開けるといくつものライトが野川由美子を照らしたりと、鈴木清順らしい奇抜な演出も楽しめる一作です。