山下耕作の持ち味が色濃く反映する 「強盗放火殺人囚」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷【脱獄大作戦 娑婆ダバ娑婆ダバ!】 より


懲役7年の判決を受け、南大阪刑務所に服役している緒方竹見(松方弘樹)は、仮釈放を間近に控え、作業場で一流大学の入試問題を印刷していた。元暴力団員の前河(岩尾正隆)の命で、問題用紙を横流しする危険を冒しながらも、模範囚としてお勤めを果たしている。ところが、仮釈放が認められたものの、身柄引受人の書類が白紙で返ってきたため、仮釈は取り消しとなる。納得の行かない緒方は脱走し、前河の黒幕である藤本喜久蔵(遠藤太津朗)が、裏で手を回していたことを知る。緒方は再び刑務所に戻され、前河の依頼を受けた三宅春造(若山富三郎)とひと悶着起こす。二人は他の刑務所に移送される途中、藤本の手の者に襲われるが、この機を利用して脱走する。



パンクフロイドのブログ-強盗放火殺人囚


監督:山下耕作

脚本:高田宏治

撮影:赤塚滋

美術:井川徳道

出演:松方弘樹 若山富三郎 ジャネット八田 前田吟 春川ますみ 殿山泰司

1975126日公開


「脱獄広島殺人囚」「暴動島根刑務所」は松方弘樹の殺人シーンから幕が開きますが、本作はやけにおとなしく始まります。前二作とは違い、松方演じる緒方が模範囚で仮釈放を待っている身なので、人物像が違ってきています。


一流大学の入試問題を刑務所で印刷している緒方は、元暴力団員の前河(岩尾正隆)の命で、やむなく問題用紙を横流しします。って言うか、そもそも刑務所で服役囚に入試問題を印刷させちゃマズイでしょう(笑)。緒方は同じ作業場で働いている黄(前田吟)が盲腸炎になった時は、入試問題の横流しをした見返りとして、前河に頼んで裏から手を回してもらい、優先的に入院できるように手筈を整えるほど情に篤い男でもあります。


模範囚だった緒方は仮釈放が認められたものの、なぜか身柄引受人である幸代(ジャネット八田)が書類に判を押さず、仮釈は取り消しとなります。このあたりから徐々に前二作で見せた松方弘樹のアナーキーな片鱗を見せ始めます。緒方は黄の義兄・文(川谷拓三)に協力してもらい、箪笥に隠れて脱獄しようとします。ここでの一連のギャグは中島貞夫が見せた演出をうまく引き継いでいます。看守課長の菊地(菅貫太郎)の女房・敏子(春川ますみ)を人質に取り、辛抱できずにヤッてしまうあたりも、本能のみで生きていたキャラクターに相応しいです。あっさり捕まることも含め(笑)。


人質を取って幸代と対面した緒方は、幸代が暴力団に脅迫されていたことを知ります。刑務所に戻った緒方は、前河が裏で仮釈放の取り消しに動いたことを察し、金を積んで仮釈放させろと詰め寄ります。緒方の存在を危険視した前河は、三宅春造(若山富三郎)をそそのかし緒方抹殺を計りますが、勝負はつかず共に懲罰房に入れられてしまいます。前河の黒幕である藤本喜久蔵(遠藤太津朗)は、この一件で緒方と三宅が他の刑務所へ移される事を知り、子分に護送車を襲わせます。谷底に転落した護送車から九死に一生を得た緒方と三宅は、追手を逃れて大阪・新世界へ巡り着きます。


幸代から逃亡資金を受け取ると、二人は三宅の故郷・四国の今治へ逃れ、20年前に生き別れになった三宅の娘と再会します。このくだりは中島貞夫監督にはなかった人情話で、山下耕作の持ち味が出ており泣かせます。実は娘だという根拠はかなり疑わしいのですが、三宅に夢を見せてあげようとする緒方の心意気が涙モノで、ラスト近くに女房よりも三宅を選択する理由にも繋がってきます。


宿に戻ってから隣の宴会場が喧しく、思わず三宅は怒鳴り込みますが、刑事が宴会をしていると知るや、キ○ガイの真似をして誤魔化そうとするなど、緩急のつけ方も上手いです。刑事に正体を見破られた二人は逃走中に離ればなれになります。緒方は娘夫婦のために家を建ててやる約束をした三宅の願いを叶えるべく、藤本の娘を人質に取り金を強請ろうとしますが、詰めが甘く刑務所に逆戻りしてしまいます。文の協力を得て再び脱走した緒方は、釜ヶ崎で三宅と再会します。二人は藤本の妾宅に向かい、家に火を放ち金を奪って逃げようとしますが、藤本の放った銃弾が三宅の腹を貫きます。


前二作の中島作品と違い、松方弘樹演じる緒方のキャラクターは二転三転します。前半は仲間を思いやる模範囚として描かれ、本能のまま行動した「脱獄広島殺人囚」の植田、「暴動島根刑務所」の沢本の面影はありません。最初の脱獄あたりから徐々にシリーズ二作のキャラクターに近づきますが、三宅との逃亡で義理と人情を重んじる侠客のキャラクターに変わってしまいます。


山下耕作は数多くの任侠映画を撮ってきた監督に相応しく、笑いを取りに行く部分では中島監督の路線を継承しつつ、肝心要の部分では独自の色を出しています。登場人物のキャラクターもそのひとつでありますが、終わり方も山下らしい見せ方をします。「脱獄広島殺人囚」では娑婆に出ることへの飽くなき執念、「暴動島根刑務所」では自由への渇望と爽快感を残して映画館を後にしましたが、本作では東映任侠映画の滅びの美学、あるいは「バニシング・ポイント」のような反逆の精神を見せて終わります。