若尾文子が絶品 「女は二度生まれる」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

シネマヴェーラ渋谷【川島雄三  「イキ筋」  十八選】 より


靖国神社の太鼓の音がきこえる花街。芸者小えん(若尾文子)は大学生牧純一郎(藤巻潤)に心をときめかす一方、彼女の毎日は、相かわらず男から男へと、ただ寝ることだけの生活だった。たまに、客となった寿司屋の板前、野崎(フランキー堺)に触れ合うものを感じても、結婚を考えるまでの深い仲とはならなかった。そんなある日、彼女のいた置屋の売春がばれて営業停止になった。彼女はもとの同僚にさそわれるまま、銀座のバーに勤め、そこで馴染み客だった筒井(山村聰)に再会し彼の二号となった。しかし、筒井が病に倒れ、小えんは元の芸者に戻る。ある日、お座敷に呼ばれた彼女は、その席で社会人になった牧と再会する。



パンクフロイドのブログ-女は二度生まれる


監督:川島雄三

脚本:井出俊郎 川島雄三

原作:富田常雄

撮影:村井博

美術:井上章

出演:若尾文子 山村聰 フランキー堺 山茶花究 藤巻潤 山岡久乃

1961728日公開


若尾文子が今まで観てきた彼女の役の中で、最も愛おしく思える女を演じています。若尾が演じる小えんはチェーホフの「かわいい女」におけるオーレンカに共通する人の良さと可愛さを兼ね備えています。芸者なのに男に対して無防備で、そのために仕事以外にも、男と簡単に寝てしまいます。男からすれば都合のいい女と言えるでしょう。得意客の矢島(山茶花究)は小えんを旅行に誘ったにも関わらず、宿泊先で昔の女に再会すると、そちらに靡いてしまい、小えんを一人にさせておきます。小えんは矢島の嘘を真に受けた振りをしつつ、女のところに送り出します。


やがて、彼女は売春防止法のあおりを受け、ホステス業に転身します。小えんは店で昔のなじみ客・筒井と再会します。彼女は筒井の二号となり、わずかなお手当てで彼に尽くします。ある日、筒井は酔った勢いで、男に尽くすしか取柄のない小えんをなじってしまいます。筒井はすぐに謝りますが、小えんは彼を怒るよりも自分の不明を恥じます。そして、彼女は筒井のために小唄を習い、思いがけない才能を発揮し彼を喜ばせます。


ところが、好事魔多し。小えんは弟のように思っていた工員の少年と、成り行きで身を任せたことが筒井にバレ、更に彼が病に倒れたため、彼女は再び芸者としてお座敷に上がらなければならなくなります。その席で小えんは、昔風呂屋への行き帰りに顔を合わせていた牧純一郎と再会します。小えんは牧のことを秘かに憧れていましたが、彼が彼女に外国人客の夜の接待をたのんだのを知って傷つきます。小えんは筒井への義理から、枕営業をしないことを決めており、自分の立場が悪くなろうとも、牧の依頼を断ります。


やがて、筒井も亡くなり、小えんは一人ぼっちになります。彼女は、工員の少年が山に行きたがっていたのを思い出し、二人で上高地に向かいます。旅の途中、小えんは列車の中で家族連れの野崎を見かけます。小えんと野崎は、おトリさまに一緒に行き商売をはなれて泊ったりしたほどの仲でしたが、野崎は芸者と寿司屋の板前では吊りあわないと考え、身を引いた経緯がありました。互いに声を掛け合うこともなく列車は駅に着きます。小えんは少年を目的地に行かせ、彼女は一人無人の駅に残ります。


そして映画は、まるでぶった切るような唐突な終わり方をします。ここで終わるの?という感じで、ラストの意味に含みを持たせるよりも、我々観客はいきなり映画の外に放り出された感覚を味わいます。この場面以外にも、芸者の売春行為を警察に密告した犯人を最後まで明かさない点を含め、川島雄三の投げ出したままの演出が目につきます。とは言え、そのような疵も全て吹き飛ばしてしまうほど、この映画での若尾文子の存在感は特別でした。川島は大映幹部の前で「若尾くんを女にしてみせます」と啖呵を切ったそうですが、むしろこの映画では若尾に男にしてもらったように思うのは、ファンの身びいきでしょうか(笑)。