弾け具合が足りないものの、やはり面白い 「ボス その男シヴァージ」を観て | パンクフロイドのブログ

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アメリカで大成功を収めたインド人実業家シヴァージ(ラジニカーント)はインドに帰り、仲の良い親戚の“おじさん”(ヴィヴェク)と一緒に、南インドの故郷チェンナイで貧しい人のために無料の病院や学校を建設しようと計画する。しかし、悪徳企業家アーディセーシャン(スマン)の裏工作により、病院の建設は中止に追い込まれる。一方、シヴァージの両親や“おじさん”は、彼がなかなか結婚しないことを心配し、様々な女性を紹介するが、シヴァージは首を縦に振らない。そんなある日シヴァージは、ある寺院でタミルセルヴィー(シュリヤー・サラン)という美女に一目ぼれする。シヴァージは私財をすべて投入し、賄賂も使って病院の建設許可を得る。ところが、賄賂を使っていたことが税務署にばれ、彼の手元には1ルピーしか残らなかった。シヴァージは“おじさん”とともにアーディセーシャンの悪事を暴こうとするが、アーディセーシャンは役人を使ってシヴァージを逮捕させ、護送しながら殺害しようと企む。


ボス その男シヴァージ 公式サイト



パンクフロイドのブログ-ボス その男シヴァージ1


製作:インド

監督・脚本:シャンカール

撮影:アナンド

美術:ソータ・サラニ

音楽:AR・ラフマン

出演:ラジニカーント シュリヤー・サラン

2012121日公開


本作は「ロボット」以前に製作された映画であり、「ロボット」のヒットを受けて、日本公開の陽の目を見た作品です。「ロボット」同様に監督はシャンカール、主演はラジニカーントで、3時間5分の長丁場です。「ロボット」ほどブッ飛んだ演出はないものの、それぞれ見せ場となるアクション場面が用意されています。もちろん所々に挿入されるミュージカルシーンも楽しませてくれます。


難を言えば、人物描写と物語の展開が強引過ぎること。特に前半はシヴァージがタミルを口説こうと、かなり行き過ぎた行為が目立ちます。金持ちが金にあかせてタミルをモノにしようとしか見えなく、シヴァージが鼻持ちならない奴に思えてくるのは、映画にとってマイナスでしょう。まるで悪徳企業家のアーディセーシャンがやっていることとと同じなのです。また、シヴァージはアーディセーシャンの妨害に遭い、そのため役人に賄賂を贈って、病院や学校の建築許可をもらおうと画策するのですから、更に印象は悪くなります。他にも、シヴァージに反感を持っていたタミルが、彼を好きになる決定的な場面を見せないのも、物語としては弱いところでしょう。


前半はこのようストーリーの面で、主人公に感情移入できずモヤモヤした気持ちが残ります。ただし、アクション場面とソング&ダンシングの場面は、「ロボット」ほど派手ではありませんが、エンタテイメントとして十分楽しめる作りをしています。特にタミルの職場である楽器店でのアクションは、様々な楽器を用いて工夫された演出となっています。



パンクフロイドのブログ-ボス その男シヴァージ2


中盤になると、ようやく物語も軌道に乗り、シヴァージが無一文になってからは、観客もこの人物に共感を持ち始めます。シヴァージは屋敷を担保に入れ、病院や学校の建設のための資金を捻出した挙句、建設は中止となり、裁判にも負けてしまいます。その後、彼はアーディセーシャンと遭遇し、屈辱的な扱いを受けます。物乞いに金を与えるようなアーディセーシャンの行為に対し、観ているこちらも怒りに駆られ、シヴァージを応援したくなります。そして、アーディセーシャンからシヴァージに渡った1ルピーのコインが、この後様々な局面で小道具として活用されます。


この映画ではインドにおける貧困や賄賂が横行する社会問題も取り上げていますが、あくまでも映画の背景に留めています。基本、正義感の強いシヴァージと悪のアーディセーシャンとが戦うエンタメ作品なので、映画は悪が滅びる方向に持っていき、アーディセーシャンも金の亡者に相応しい末路を辿ります。前半におけるシヴァージの成金のような金の使い方と独裁者的な振る舞いを除けば、伏線の回収、小道具の使い方など上手い演出であり、ダイナミックなアクションとミュージカル場面は娯楽映画の醍醐味が味わえます。