またしても原作の改変が裏目に・・・「カラスの親指」を観て | パンクフロイドのブログ

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悲しい過去を背負ったままサギ師になったタケ(阿部寛)と、成り行きでコンビを組むことになった新米サギ師のテツ(村上ショージ)。そんな2人の元に、ある日ひょんなことから河合やひろ(石原さとみ)と河合まひろ(能年玲奈)の美人姉妹、それにノッポの石屋貫太郎(小柳友)を加えた3人の若者が転がり込んでくる。彼らもまた、不幸な生い立ちのもと、ギリギリのところで生きてきたのだった。そこから、他人同士の奇妙な共同生活が始まった。しかし、タケが過去に起こしたある事件が、彼らを一世一代の大勝負へ導こうとは、知る由もなかった。タケは過去を清算するため、仲間たちと共に勝負に挑んでいく。


カラスの親指 公式サイト



パンクフロイドのブログ-カラスの親指1


監督・脚本:伊藤匡史

原作:道尾秀介

撮影:岡雅一

美術:古谷美樹 清原麻祐子

出演:阿部寛 村上ショージ 石原さとみ 能年玲奈 小柳友 鶴見辰吾

20121123日公開


キャスティングに多少問題はあるものの、序盤は伏線の張り方、小道具の使い方、アナグラムの利用等が工夫されており、競馬場におけるユースケ・サンタマリアへのケチな詐欺も、ツカミとしては悪くありません。道尾秀介の原作を読んでいなければ、あざやかなトリックで構築された、そこそこ面白いコンゲーム映画として認識できたかもしれません。しかし、原作を読んでいる身としては、正直この程度の出来では満足できるものではありません。


特に原作のファンであれば、次の2点は映画にとって致命傷と言えます。ひとつは、主人公タケの相棒となるテツを、村上ショージが演じていること。確かに原作のテツのイメージは、村上に近いものがあります。ただし、映画の出演経験はあるものの、俳優が本職ではない彼にとって、準主役は明らかに重荷になっています。殊にセリフ回しがたどたどしく、村上が喋るたびにこちらは落ち着いて映画を観ることができないのです。また、やひろを演じた石原さとみもはしゃぎ過ぎで、彼らをキャスティングした伊藤監督の責任は重いです。それでも、原作自体が面白いので、肝となる部分を外さなければ、十分佳作程度の作品にはなり得ました。



パンクフロイドのブログ-カラスの親指2


注意:ここからネタバレに繋がる記述になりますので、これから映画を観ようと思っている方は、読み飛ばしてください。


もうひとつは、闇金相手に勝負を賭けたタケと仲間に敗北感を味わわせないまま、タケが真相に辿り着く点。原作ではタケたちの企みが、闇金側に筒抜けのまま進んでいったため失敗に終わり、惨めな結果となりますが、一応のけじめは着きます。復讐によって自分たちの魂が救済されるわけではないことを、タケに理解させた上で新しい出発を決意するからこそ、仲間や読者さえも欺くテツの仕掛けた大ドンデン返しが生きるのです。ところが、映画のような展開だと、タケは相変わらず闇金側の仕返しに脅えながら生活することになり、やひろとまひろの姉妹も、本当の意味で生活を変えるきっかけにはなりません。


この映画でわずかに収穫があるとすれば、まひろを演じた能年玲奈の女優としての可能性でしょう。個人的には、東京の馴染み深い場所が、スクリーンで観られたことが、収穫と言えるかもしれません。