人間を考察する映画として面白い「珍品堂主人」を観て | パンクフロイドのブログ

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銀座シネパトス【巨匠・豊田四郎 に見る 男と女】 より


加納夏磨(森繁久彌)は骨董屋が本職ではないが、専門家をしのぐ鑑定眼の持ち主で「珍品堂」と呼ばれている。加納は実業家・九谷(柳永二郎)の数寄屋造りの広大な邸宅が遊んでいるのを知って、これを借り受け高級料理屋の経営を思い立つ。九谷の快諾を受けた彼は早速準備に取り掛かる。ある日、茶道、商業美術、その上骨董眼にも秀れている才女タイプの蘭々女史(淡島千景)が九谷の紹介で相談役としてやって来た。屋敷は彼女の設計で改築され、女中頭には腹心の於千代(千石規子)が来た。料理屋「途上園」の景気は上々だったが、蘭々が「途上園」の顧問に収まった途端、女史は支配人の加納をこき使うようになった。また、女史が会計の佐々を馘にしたことから、従業員が怒りついにストライキという騒ぎになる。



パンクフロイドのブログ-珍品堂主人1


監督:豊田四郎

脚本:八住利雄

原作:井伏鱒二

撮影:玉井正夫

美術:伊藤熹朔

音楽:佐藤勝

出演:森繁久彌 淡島千景 柳永二郎 乙羽信子 淡路恵子

1960313日公開


悲劇と喜劇はコインの裏表のようなもので、当事者からすれば悲劇であっても、第三者の目で見れば喜劇にしか映らないことがままあります。本作も悲劇と喜劇の境目を行ったり来たりしながら、人間考察の面において興味深い映画となっています。


珍品堂の主人・加納は店舗を持たずに、骨董の鑑定人を行なっています。彼の目利きは確かで、商売上のしがらみがあまりないため、鑑定を依頼に来る者の信頼は篤いのです。ただし、女好きが玉に瑕で、できた女房がいるのに、小料理屋の女主人・佐登子(淡路恵子)を2号にしています。彼は実業家・九谷の邸宅が空き家なっているのを知り、そこを高級料理店にする計画を持ちます。佐登子を女中頭にし、加納は支配人に納まって経営しようと考えます。


早速、加納は九谷に相談し快諾を得るのですが、そこに落し穴が待っていることに、この時点では気づきません。加納は九谷に女性建築家の蘭々女史を紹介され、彼女が骨董品に興味を持っていることで意気投合します。九谷は手付金として100万円を用意した加納に対し、苦言を呈しながら気前良く2000万円の融資をします。ついでに蘭々のことを「女として甘く見てはいけない」と忠告します。これは二重の意味を持つ言葉であったことが、物語が進むにつれ明らかになっていきます。


この一見太っ腹で気のいい人物が、深慮遠謀で物事を進め、後の場面になるほど一筋縄で行かない悪党だったことに気づきます。佐登子を女中頭にしようと思っていた加納に対し、女史が推す於千代を微妙に後押しするのは、ほんの序の口。当てが外れた加納は、高級料理屋の立ち上げを言い訳に、自然と佐登子の小料理屋に足を向けなくなります。これも九谷にとっては思う壺です。


加納は蘭々に女として惹かれるものがあり、そのため骨董品にも人間にも鑑定眼が曇ってしまいます。大事にしていた吊燈籠と引き換えに、女史が持っていた偽の「白鳳仏」を掴まされ、当初相談役だったはずの女史が顧問に納まり、高級料理屋の経営にも徐々に主導権を握られていきます。


豊田四郎は色と欲の絡んだ人間模様を、ユーモアを交えつつ時に冷徹で非情な描写を見せます。加納が佐登子に裏切られ、支配人としての地位を失う末路は悲惨です。ただし、ボロ切れのようになった夫を迎える妻のお浜(乙羽信子)のやさしさが救いとなっています。


物語は加納と蘭々女史を中心に進んで行きますが、影の主役と言えるのが、実業家の九谷です。本物のワルは好人物を装いながら、悪事を働くために将来を見越して、様々な布石を打っておきます。実に計算高い人物で、この映画で最も興味深いキャラクターでした。地味な映画にも関わらず、同性愛を思わせるエロティックな入浴場面があったり、味方と思っていた人物が敵に通じていたりと、見せ場は多いです。また、市原悦子、有島一郎、高島忠男などを端役に使うなど、贅沢な俳優の起用にもため息が出てしまいました。