総合病院の屋上で、一人の青年が軍服の壮年の男性に銃を突きつけられていた。
「魔法犯罪者、罪状『アイスエイジ』未遂にて、確保。」
低いしゃがれた声とともに、引き金が引かれる。男は悲鳴を上げる間もなく、水晶の中に閉じ込められた。屋上の扉から、複数の同じ軍服を着た男たちが入ってきて、敬礼をする。
「ご苦労様です!」
「うむ。これは運んで、牢獄にぶち込んでおいておくれ。」
それから、彼は水晶に背を向けて屋上から空中に歩みだした。彼は正真正銘の万能魔法使い。空を飛ぶことも、手から火を出すこともできる。彼は空を歩いて、自分が所属する組織の本部へと、戻っていった。
そう、今回、病院中が氷漬けにさせられそうになったのは、あの捕まった青年の仕業だった。壮年の男は、犯罪を犯した魔法使いを捕まえる任務に就いている。
とある情報部にて。
五人の職員が髪の毛を振り乱してパソコンにくぎ付けになっている。目が血走っていて、男女ともに同じくらい髪の毛が短い。
疲れ切っている女性職員が唯奈を出迎えた。備品の返却だ。
「はい、これ。」
マジックデバイス。これは執行官が任務に就くときに持つことができる特殊アイテム『魔法収納型デバイス』だ。魔法をデバイスに封じ込めて、対象を撮影して魔法を選択することで対象に魔法を使うことができる。
「お疲れ様でしたー。」
そのタイミングで唯奈は爆弾を落とす。
「ちょっと!情報に間違ってたんだけど!あの子まだ生後半年だったわよ!」
「え、ほんとに!?うわ、ごめん。」
「ごめんで済むと思う!?私の!女子高生の自由時間!返して!」
「いやでも仕事だし」
「しなくていい仕事でしょ!これ、上に報告したらどうなるかなー」
唯奈の言葉に、その課にいた全員の顔色が蒼くなった。二人冷や汗をかいている。この二人が、引き渡す情報の選出と承認をしているのだ。無理もない。
奥の課長席から声がした。
「おい、小娘。」
「唯奈だけど。ゆいゆいでも可。」
「こっち来い。」
裏の会議室。
まだ30歳前半で課長になった結城信夫が腕を組んだ。
「条件は?」
唯奈は手のひらを上に向け、親指と中指をくっつけた。それにうなずく。無言の値段交渉だ。結城が指を一本建てる。唯奈は両手の指を建てた。「話にならん」と結城が顔をしかめる。
「こっちには、ミスした職員の名前、課長さんと教育係の中堅職員さんの認印、あるんだけどなー・・・」
「ク゚っ・・・・」
「どうしよっかなー・・・課長さん最近子供生まれたんでしょ?かわいいんだろうねー・・・でも、魔法使いを無駄にうごかしたとなーるーと・・・」
執行官になりうる魔法使いは稀少だ。よって、動かす度にお金がかかるしデバイスを貸し出す。それが、ミスによるものならただでは済まない。
「・・五万。」
「六万。」
「・・・・・・・・・・五万七千。」
「けち。」
「五万八千と食堂の三回無料券。」
「・・・・・・・・・・ここの食堂おいしくないんだよねー。スペシャル定食も家庭料理レベルだしー」
「なっ!!・・・わかった。本部の最上階レストランの食事券、三人分でどうだ。」
「乗った!」
唯奈はそういうと、その場で示談金を受け取って会議室を出た。
「次からはきをつけてねー」
と手をひらひらと振って、そこを出た。
システム部に行こうと廊下を歩いていた唯奈は、曲がり角で課長に呼び止められた。出口とは逆方向に行こうとしている唯奈に気づいて、奥の机から急いで飛び出したのだろう。
「待て!システム部には」
「えー?今から行く予定だったのに」
「あそこにはうちの奥さんがいるんだ。辞めてくれ・・・」
「どうしよっかなー・・・システムのミスかもでしょー?バグとか困るんですよー。設備投資しないから、こんな勘違い起きるんでしょー?いい機会だと思うのよー」
「グッ・・・!」
「まあ?ご夫婦で責任もって今日中に修正してくれるなら―、まあ何とか?納得はしないけど何とか?」
「・・・・・・・今日中に修正して、今週中にバグを修正して間違いを洗い出す。」
「今日は木曜日かー・・・まあ、それならいいですよ?」
もう一度手を出すと、そこにもう一枚の食事券と有名テーマパークの無料券が置かれた。
「えへへ、まいどあり。そだ、今度平日に外泊申請だすから承認よろー」