時系列を少し戻さなければならない。

 

私立高校の入試と重なるように、人生2回目のバレンタインデーがやってきた。

 

クラスメイトの策略で、Oと隣同士になった私たちだっだが、

必要なこと以外は会話せず、行きも帰りも別々だった。

それでも隣同士というのは安心感があり、精神状態は極めて安定していた。

 

だから、バレンタインのチョコも期待せず、その日もいつも通りに過ごしていた。

 

ホームルームが終わって、帰り支度をしていると、隣のOが声をかけてきた。

「ちょっといっしょにきて」

「はいはい」

 

Oは校舎の裏手へと私を連れて行く。

(なんだ、なんだ!これはひょっとすると…)

チョコを渡すだけなら、場所は選ばなくていい。

もはや私たちが交際していることは学校全体の公認であったからである。

 

そこはプールと面する4階のベランダであった。

ここは周りからまったく目が届かない。

 

振り返るO。

「目を閉じて」

(きた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!)

 

まだ中学生である。

フォークダンスのとき以外、まだ手をつないだこともないのである。

根っからのアスリートだが,常に控えめで,物静かなOが?

 

でも,言われるがままに目をつぶる。

(しまった〜〜〜〜〜〜!歯磨きしてないぞ!)

 

心臓が高鳴る………。

 

私の首に,Oの両手がかかる…………。

 

………………ふぁさ

 

(ん?ふぁさ?)

 

目を開けると,私の首にはメダルチョコでできたレイがかかっていた。

一つ一つのチョコにはメッセージが書いてある。

 

「高校入試,がんばろう!」

「いっしょにF高校に行こうね!」

などなど…・

 

(うん,そうだよね!そうさ!それでいいのさ!)

 

「ありがとう」を言いながら,自分の浅はかな思考を恥じるのだった。

 

そんなOのことを,ますます好きになっていった私だが,

それから1年を経たずして,私たちは別れることになる。

 

高校に入り,ますますテニスに打ち込むO。

一方,私は生徒会活動に打ち込む毎日。

クラスも違い,まったく接点がなくなってしまったのである。

 

嫌いになったわけでもなく,好きな人ができたわけでもない。

とにかく一旦関係をリセットすることを提案した私に,

Oも二つ返事でOKした。

 

あのまま関係を続けていたらどうなったのか…。

 

その後,いろいろな出会いや別れがあったが,今でも鮮明に思い出す。

 

甘酸っぱい青春の1ページであった。