テレビ出演で,もう一つ思い出したことがある。

 

私たちのクラスは,何でも徹底的に話し合った。

席替え一つにしても、くじ引きなどせず,話し合いで決めていたのである。

 

その当時、生徒の近視が急激に増加してきていた。

眼鏡なしでは、後ろの席から板書が見えない。

だが、まだ多くは仮性近視の段階であり,回復の余地があるため,

眼鏡をかけずに生活したいという意向もあって,

背が高いのに前の席に座りたいという生徒がいたのである。

 

しかし,背が高い人が前に座ると,後ろの人が見えにくい。

 

したがって,前方の小さい机に大きい人が,後方の大きい机に目のいい人が座るという

逆ザヤが起きてしまったが,それはやむを得ないこととなった。

 

そんなある日,某国営放送が取材にくるということで,クラスは色めき立った。

 

撮影当日,いつも着ないような上等な服と,テレビに映る緊張感に身を包んだ私たちは、

今か今かと撮影クルーを待っていた。

 

番組の内容はよくわからなかったのだが,

私たちのクラスと,もう一つのクラスの授業風景を撮影して帰っていった。

 

それから約一ヶ月後、待ちに待った放送日がやってきた。


ところが放送が始まるや否や、私たちは落胆に打ちひしがれることになったのである。


テレビには、小さい机に無理やり座っている大きい生徒が映されており、

「こういうアンバランスが姿勢の悪い生徒を生んでいる。」とナレーションが入る。


そして一方、整然と小さい順に並んだもう一つの

クラスの様子が映し出され、

「こうでなければならない」ときたのである。


私たちは何もわかっていない大人たちに、まるで土足で踏み荒らされた気持ちになったが、

世の中の無情を学ぶよい機会になったことは、N先生のフォローのあかげであった。


だが、その頃からどうもこの某国営放送が好きになれないのである。