N先生は作文指導の権威である。その宿題といえば、当然「作文」である。
小5のときは、ほぼ毎日作文の宿題が出され、
それをもとにガリ版で学級文庫の冊子にまとめてくださっていた。
作文を書く生徒の方もなかなかたいへんである。
毎日何を書くかを考え、推敲し、なんとか原稿用紙を埋めていく。
作文のうちはまだ日々の出来事を綴れば何とかなったのだが、
小6になると困ったことに「作文」ではなく「詩」を書いてこいという。
「詩」というものは、何か感動することがないと書けないものである。
ところが、そう毎日感動することは起きないのである。
まもなくネタがつき、書くことがなくなる。
考えても考えても何も出てこない(>_<)!
もともとない才能だから、あっという間に枯れ果てるのである。
受験勉強もしなくちゃならないのに、余計なことをしてくれると呪いつつ、
とうとう私はしてはいけないことをしてしまったのである。
「盗作」である。
国語辞典の巻末に、たくさんの詩が載っていた。
その中から、ばれそうにないものを選んで、少しだけ表現を変えて出した。
私の詩を見た瞬間、N先生は
「お前は何か見て書いたのか?」
戦慄が走る…。
「いえ、ちがいます」
「…そうか」
それ以上おっしゃらないところが恐怖であった。
後日、朱筆でこう書いて返された。
「うわっつらの中身のないくだらない作品」
私の盗作は以下の通りである。
秋の日の
バイオリンの
ためいきが
身にしみて
ひたすらに
うら悲し
……
あとで知ったが、この詩のもとはフランスの有名な詩人、ポール・ヴェルレーヌの作品であった。
N先生が知らないはずがないのである。
恥ずかしさと同時に、もう二度と盗作はしないと胸に誓う私であった。