刺繍は,ちょうどこんな感じだった。
とても小さい刺繍だから,もしかすると級友は気が付かないかもしれない。
そんなかすかな希望は,教室に入るなり打ち砕かれた。
「こいつ,なんか襟につけてるぞ! 女みてぇ! 気もちわりぃ!」
「近寄るな!チューリップがうつるぞ!」
「チューリップ!チューリップ!」の大合唱。
それからが大変だった。
無視されたり、物を隠されたり、体操服を破かれたり…。
身体が弱いから、抵抗することもできず、どんどんイジメがエスカレートする。
親には心配をかけたくないから黙っている。
見かねた女子が担任に報告してくれたが、そのうちにおさまるさいうことで済まされる。
5年生になればクラス替えがある。
担任もクラスメンバーも変わればなんとかなる。
それまでの辛抱だ。
こうした我慢の毎日は、私の人相も変えていった。
当時の私の写真には笑顔がない。
そして5年生のクラス替えがやってきた。
1学年は3クラス……ということは、もとのクラスのメンバーが1/3残っているわけで、
それらが種火となって新しいイジメに火をつける。
あと2年…この状態が続くのか。
放課後の誰もいなくなった教室で、ポツンと机の木目を見ていると…
もう一人ポツン……がいた。
救世主現る!
編入生のSくんである。