それは小4の秋頃のこと。

 

タンタントントン…と心地よい音を立てて,母が朝食をつくっている。いつもの朝である。

私が学校に着ていく服は,いつもきれいにたたまれて枕もとに置かれている。

 

ふと見ると,着ていくポロシャツの両襟に,何かがついている。

 

近づいて見ると,それは……

かわいいチューリップの刺繍!!

であった。

 

 

当時,母は教会の婦人会で,オルターズギルドの奉仕をしていた。

教会の礼拝で用いる聖具や,司祭のストールなどのお手入れをする奉仕活動である。

 

母は,そこでストールの刺繍を習ってきた。

見事な刺繍で,海外でつくられたものと思われるかもしれないが,

本当は信徒によってつくられているのである。

 

この刺繡にはまった母は,はまりすぎ,ついには頸椎を痛めてしまうことになる。

 

その母が,こともあろうに,練習代わりに私のシャツに刺繍をしてくれたのであった。

 

こ……これは……

と、呆然とする私の後ろから

「どう?かわいいでしょ(^-^)?」と母。

 

「いや、これは着ていけないよ…。みんなに笑われちゃう(>_<)」

「何言ってるの‼︎男の子でしょ‼︎」

「男だからいやなんだよ(>_<)!」

 

押し問答に負けた私は、泣く泣く袖を通し、学校へ向かうのであった…。