翌朝である。
私は母に叩き起こされた。
母は新聞を広げてこういった。
「Tくん…亡くなっているわよ!」
小学校の1年生である。
まだとても新聞の字が読める状態ではない。
しかしその記事には、確かにTくんの顔写真が載っている。
7歳になったばかりの私にも,ことの重大性がわかった。
その後のいろいろな話を総合して判明したことだが、
どうやらTくんは私に続いて踏切内に入ったようだ。
そして侵入してきた上り列車の端っこに飛び出た金具に服をひかっけられ,
隣の駅までひきずられていった。
駅のホームで待っていた乗客が,電車の端に布のようなものがついていることに気づく。
止まる寸前に、それが子どもであることがわかり,大騒ぎになった。
そのときには、すでにTくんの命は尽きていた。
左半身を下にして引きずられたため,彼の左腕はとうとうみつからなかったという。
いったいどうしてそんなことになったのか…。
Tくんはどうして私のあとを追ってきたのか…。
全ては謎に包まれたままである。
ただ確かなのは、彼がこの世で見た最後の風景は、私の背中であろうということ。
そして、しばらくは私のうしろにいたのかもしれないし、今もいるのかもしれない。
それを確信させる出来事が起きたのが、それから13年後の事故なのである。