私は、保育園の年長さんになった。
仲間とふざけているうちに、窓ガラスに首を突っ込んで肝を冷やしたこと。
指が一本多い友だちが、手術に成功して五本指を自慢してきたこと。
保育園の思い出はそのくらいである。
我が家から線路を挟んだ向こう側は,太平洋だった。
買い物の帰り道,よく母と散歩したものである。
海岸線には、大きな昆布が波にもまれている。
岸辺では、漁師たちが何かをとっている。
しばらく眺めていると、こっちこいと手招きをする。
手招きされるがままに近づいて見てみると、漁師がとっているのはウニであった。
漁師がそのウニをカナヅチのようなもので真っ二つに割ると,
中に鮮やかなオレンジ色の卵が見えてくる。
漁師はそれをヘラですくって、私の手の上に乗せてくれた。
「食べてごらん」
そっと口に入れる。
磯の香りとウニの甘さが口いっぱいに広がった…はずなのだが,
味をわすれてしまった