緊急入院から10日目の金曜日。
病院から,父の呼吸がだいぶ不安定になっていると電話があった。
面会に来られますか?とのことだったが,仕事があるのにそう簡単には行かれない。
特に土曜日は朝から晩まで,最も自由の利かない曜日である。
とりあえず日曜日の朝に面会に行く旨を伝え,
もしそれまでに亡くなるようなことがあれば,病院で看取ってもらうよう依頼する。
スマホの画面を常に視界に入れながら仕事をするが,病院からの連絡は来なかった。
その夜は,実家に泊り,日曜の早朝7時前,タクシーGOで病院に向かう。
時間外窓口から院内に入り,8Fを目指す。
面会などに用いるロビーにあるインターホンを押して,病室に導かれる。
父は個室に移されていた。
「このところずっとこんな感じなんですよ」
酸素マスクの父は息苦しそうに肩で息をして,まさに必死に酸素を取り入れようとしてる。
延命措置は望まない旨を伝えてあるのだが,
検査用の管や,点滴の管,酸素のパイプなどが絡まっていて,手を握る余地もない。
モニターにはよく見る心拍を表す波形が表示されており,120/分を示している。
血圧は上が120,下が80くらい。私より正常である。
心臓も全身に何とか酸素を送ろうと頑張っているのだ。
そして酸素飽和度は…85~87あたりを指している。これは生命の危機である。
意識のない父の傍らで,原稿の仕事をしながら過ごそうと思っていたのだが,
看護師さんに軽くいなされる。院内はWi-Fiも飛んでいないのだ。
仕方がないので,うとうとしつつ,父の傍らで3時間。
そろそろトイレに行きたくなってきたし,朝ごはんもまだである。
何やらベッドを入れれば,一晩中傍にいられるとのことだったが,
僕と父はそういう関係でもないのだった。
仕事があるので,一旦実家に戻ること,
何か変化があったらすぐに駆けつけることを約束して実家に戻った。
ここまでくると,なにもしてあげられない。
治る見込みはないのだから,「頑張れ」なんてとても言えない。
忸怩たる思いで電車に乗る。