「おじいちゃんは、多分認知症よ」
今から10年ほど前、実家である事件が起きた。
父がゴミを捨てに行って、帰ってきたら家の鍵がない。
どこに落としたのかわからない。
探しに探したが、結局鍵を作り直した…ということがあった。
多少の物忘れは誰にでもある。
認知症は、今起きたこと、今やったことを忘れてしまう症状をさす。
このときは、鍵をなくしたことはわかっていた。
認知症なら、鍵をなくしたこと自体を忘れてしまう。
何を探しているのかさえわからなくなる。
このときの父は、まだ軽症であったが、症状の始まりだったのかもしれない。
「私はおじいちゃんより先に死ぬわけにはいかないのよ。
残されたあなたが大変な思いをすることになるからね。」
母はそう言い残しつつ、4年前の七夕の夕刻、脳卒中で逝ってしまった。