わらしの家 その7 それから…
私たちの次の家は、自転車で15分ほど離れた団地でした。ですから、ときどき前の家の近くに行くまで出かけることがあったのです。前の家は,まもなく大々的なリフォーム工事が始まり,内装から外装まですっかり変わってしまったようでした。座敷童はその後どうなったのか,どこかへいったのか?知る由もありません。3カ月ほど経って,息子を自転車の前の補助椅子に座らせ、前の家の近くを通ったときのことです。「ここに住んでいたよね。覚えているかい?」と私が聞くと,息子が振り向いてこう言ったのです。「おぼえてるよ。ねえ,おにいちゃんとおねえちゃんは?」「え? おにいちゃんとおねえちゃん? たっくんは一人っ子だよね」「いたよ! いっしょに遊んだんだ。どこにいっちゃったんだろう?」「そ,そうなんだね……また,こよう!」私は,息子を乗せたまま踵を返し、一目散に新しい家に戻るのでした。子どもには大人には見えない世界が見えているに違いありません。息子は毎日,彼らといっしょに遊んでいたのでしょう。「わらしっていうんだって」という発言があった日からずっと。座敷童のいる家は,豊かになるという言い伝えがあります。確かに前の家にいるときは,お金は無いなりに、なぜか困ることはありませんでした。ところが,新しい家になったとたん,バブルがはじけ,勤めていた事業所は閉鎖に追い込まれ,その後10年以上、苦しい時代が続いたのでした。彼らを連れてくればよかったな…。でも,苦しい時期を乗り越えて、こうして当時を思い出せる余裕ができたのも,もしかすると,彼らが守ってくれたからかもしれません。この話の最後に添えて,ひとこと伝えたいです。「わらしくん,ありがとう!」「好きだよ」……とは,言いにくいけれど(^^; わらしの家 その1 「しろいのいない?」 わらしの家 その2 「引っ越し」 わらしの家 その3 「わらしっていうんだって」 わらしの家 その4 「ザリガニ事件(1)」 わらしの家 その5 「ザリガニ事件(2)」 わらしの家 その6 顔… わらしの家 その7 それから…