どうしてもと上司に頼まれて休日出勤した先は洋子さん(仮名)宅。

1年ぶりに伺いました。ここのケアは掃除です。

「洋子さんお久しぶりです。ぷくぷくです。」

おばあちゃん「毎回違う人が来るからかなわんわ!」

 

早速お掃除しますね。

「掃除機から始めます。最初に細いノズルで部屋の隅を吸って、それから、ヘッドを付け替えて、冷蔵庫の前から食卓。寝室はこのふすまと壁の間からかけて。次にはベット。右回りに掃除機でしたね?」

おばあちゃん「あんた、覚えてるん?」

忘れてるところもあると思いますが、今日はよろしくお願いします。

 

細かい指示が続きます。特に拭き掃除は洋子さんのこだわりが炸裂です。

おばあちゃん「ベットの頭んとこは、左から右に拭く!その後、周りも全部拭く!次、電球。はい、そこで雑巾の面を変えるぅ。テレビ台は左から右。」

私「ここで、雑巾は洗う。でしたよね?」

おばあちゃん「あんた、手順を覚えてるんは許したるわ。でも雑巾を洗うん下手やなあ。手袋してるから汚れが取れへんのや!」

(こんな汚い雑巾を素手で触る勇気は私にはないです。)

「コロナ蔓延してるこの時期です。マスク、手袋はさせてくださいね。」

おばあちゃん「この前、二度と来るな!言うた高校しか出てへんあの子(えいこちゃん仮名)、が、きれいに洗ってへんから雑巾が汚れるんや!2年前に買ったときは真っ白やったのに。3つで110円もしたのに、穴まで開ける!」

「気持ちよく新年を迎えるためにも、新しい雑巾ください。2年も働いてくれたこの雑巾に感謝しましょうよ。私が100均の店長ならよくぞここまで使ってくれたって感謝状をお送りするわ。」

洋子さん、しぶしぶ、新しい雑巾を出してくれました。

 

↑訪問ヘルパーでいろいろなおうちに行っていると、見えてくるものがあります。

高齢で持病をお持ちの皆様ですが、金銭的にも、家族関係も、ご近所にも恵まれておられる方のおうちの雑巾はきれいです。

不安、不満、抱えておられる方のおうちの雑巾は、えげつないです。

洋子さんの心も、いろいろな不満と不安が渦巻いてるんでしょう。

 

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今年米寿(88歳)の洋子さん。一年ぶりにお目にかかると随分お耳が遠くなられました。怒鳴っているとしか思えない。

腎臓の持病が悪くなってこの夏から透析を週三回されていると聞きました。顔色が黒くなって、しわが増え、皮膚の張りがなくなっておられました。

 

そこ拭く!ここ拭く!の指示の大声に、洋子さんの孤独が見えました。

大声出して指示するそのお顔が、誰かに助けを求めてるようにも私には見えたんです。

 

洋子さんは20歳で結婚し、22歳で息子さんを産みました。ご主人を33歳の厄年で亡くしたあとは、昼は事務員、夜はうどん屋で働いて、内職もして、一人息子さんをめっちゃ賢い高校からめちゃ賢い大学に行かせました。洋子さんの希望通り、奨学金を免除になる公務員になった息子さんが自慢でした。息子さんが24歳の時、結婚相手を連れてきました。同じ職場の公務員の高卒の彼女でした。しぶしぶ結婚を承諾した洋子さん。結婚式にも出ました。

女の子お孫さんも一人でき、洋子さんはめっちゃ可愛がり。でも、男の子を産めんことでお嫁さんを責めました。

お孫さんは、大手企業に就職し、そこで知り合った方と職場ご結婚され、今、海外にいてはるそうです。

 

3年前でした。尿が出なくなって救急搬送された洋子さん。入院中に息子さんは洗濯機を買い換えました。2層式の洗濯機では、濡れて重い洗濯物を脱水機に入れるんも大変や。退院後しんどいやろうとのご配慮でした。

 

 

 

 

↑こんな感じの最新鋭の洗濯機を洋子さんにプレゼントしたんです。

それが洋子さんの逆鱗に触れました。

おばあちゃん「勝手に私の物を捨てた!」

「これは嫁の仕業や!あの嫁が来てからろくなことがない!」

と、洋子さんは叫んじゃったんです。

「嫁いで40年以上も経って、それでも、私のなす事すべてがお姑さんには、あかんのです。もう、疲れました。堪忍してください。」と、お嫁さんはケアマネージャーさんの前で泣いたそうです。お嫁さんは、一時、診療内科に通われるほど、心を病んでました。

60歳で定年を迎えた息子さん、は、もう、母とはどうにもなりません、と。

 

以来、3年間没交渉です。

 

今、洋子さんは、借家の立ち退きも迫られています。ご主人がなくなって引っ越ししたその文化住宅は、は、50年以上も経ち、老朽化し、2018年6月の4年前の地震で壁もひびが入って危険な状態です。大家さんも、このまま住むのは危険ですから立ち退きをお願いします、と、いうてはるんですけれど、洋子さんは、もうすぐ死ぬから追い出すな!の一点張りです。

ケアマネージャーさんは、透析ができる入居先を探しています。

 

息子さんご夫妻は、老人ホームのお金は出しますと。でも、母に会うと、揉めるから、会うのは嫌ですと。

こんな寂しくて悲しい状況やから、来るヘルパー、ヘルパーに、皆、腹が立つんやろな。と、私は思うんです。訪問介護も今まで4社の訪問介護の会社が来ては、変わりました。

 

 

さて、掃除後のクライマックス!

 

洋子さんのこだわりの極みは、掃除機のホースの角度。

おばあちゃん「30度やで。30度!」

戸棚の隅に掃除機とホースを置くんですが、そのホースの角度が30度になるまで何度でもやり直しさせられます。

なので、うち、先手を打ちました。

「私、不器用でごめんなさい。洋子さんが30度にしてください。」

おばあちゃんそんなこともできへんって。親の顔が見たいわあんたももっと勉強してたら、こんな下働きせんでよかったのに。」

親の顔が見たい。は、洋子さんの口癖です。

あんたが勉強せんかったから、、、の云々で、心折れるヘルパーは数知れず。です。

おばあちゃん「うちの息子は、大学もええとこやし。ええ給料もらってる。孫は今アメリカやで!」

は、洋子さんの拠り所やと思います。息子さんの為だけに必死で生きてきた洋子さんの若い日が見えるんです。がんばってきた洋子さんがいたから、今の息子さんやお孫さんがいてるんです。そう思うから、私は何を言われても流せます。

それは私も主人に先立たれて、60歳を過ぎたからだと思います。

 

育ちが悪いの言葉には「両親も ご先祖様も一生懸命に働いて育ててくれました。」

私はさらりと伝えます。反論はしませんが、両親の名誉は守りたいです。

だけど、、、この言葉で、何人のヘルパーとけんかになりましたか?

もう言うたらあかんですよ、と、思います。

 

「お雑巾はハイター消毒しましょうね、お雑巾のキレイを維持しましょうね」、と伝えることも忘れません。

 

こうして掃除は無事終了。

 

おばあちゃん「前の子は育ちが悪いわ。あんな子いらんわ。」

洋子さんは事務所に電話し不満を訴えることはしょっちゅうです。うちの会社が洋子さんを担当してから、2年、その間にも何人も変わりました。だから、もう、うちの会社は、ごめんなさい、しました。入るヘルパーがいませんもの。

だから休日出勤させられちゃったんよね、私。

 

ケアマネージャーさんは、新しい受け入れ先を必死で探してると思います。ケアマネージャーさんの苦労が見えるわあ。

 

洋子さん、お育ちのええお人は、人さまに育ちが悪いって叫ばないですよ。皆さま穏やかににこやかにお過ごしです。

って、言いたくなるわ。(いわんけれどね)

 

 

 

↑この本を洋子さんにお勧めしたいわ。

 

先週に泣いて帰ってきた若い彼女の名誉のために、うち、言うてしまいました。

「明るくて働き者で、私はえいこちさん(仮名)のこと、大好きです。介護の専門学校を卒業して、訪問ヘルパーをしてくれている貴重な存在です。何より一生懸命です。私はうちの子と同じ世代の彼女がかわいいです。

「20代で訪問ヘルパーをしてくれてる明子ちゃんを私は、育てたいのです。次の世代の若いお人達を人生の先輩として洋子さんもお育てください。」

孫やと思ってほしいです、の言葉は飲み込みました。言うたが最後、うちの孫はアメリカでえ~~~!!って始まるやろうから。

「ヘルパーさんには、優しく接してください。それぞれの個性を認めてあげてください。

人生の先輩として愛してあげてください。至らないところは許してあげてください。ありがとう。てお互い言い合える関係になってください。」

 

では、失礼します。どうぞお体大切に。お幸せに。

と退出しました。

洋子さんは無言でした。

おそらく、私が帰ってから、事務所に文句の電話入れてるやろうなあ、、、。

でも、掃除は完ぺきよお。することしたからね。

 

 

厄落としには、イカリスーパー。

フードコートでランチしたら気分が上がるんだあ。

関西では有名な高級スーパーです。芦屋をはじめお金持ちの人が暮らす場所にお店があるの。何を食べてもおいしいん。

この日は、寒かったので中華そば。昔懐かしい味のスープを一口、また一口。心にも体にも幸せが染みるんよ。分厚いチャーシュウにかぶりつき、細い麺をすすり、またスープを飲んで ああ、幸せ。

 

洋子さんとこから、遠くても、寒くても、バイクで30分もかかっても、絶対来たかったんよ。払いたまえ、清めたまえ。

 

洋子さんが変わらんと前に進めんこともある。

と、思うことも、辞めた!

だってぇ、今、おいしいんですもん。

 

それより、神様が、今 下さってるええご縁を大事にしましょう。

明日も ええご縁を積み重ねたいです。

 

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