今回の杉屋佐助さんは、三重県桑名市にある多度大社の常夜燈です
多度神社は、御神体山として崇められていた「多度山」の麓にあり、延喜式神名帳に記載された式内社です。
伊勢国の二宮でもあります。ちなみに伊勢国の一宮は伊勢神宮ではありません
祭神は「御天津彦根命(あまつひこねのみこと)」で、天照大神の御子神。
※「多度大社」は、本宮の多度神社、別宮の一目連神社の他に関連する神社(摂社・末社)を合わせた総称
多度大社はお伊勢参りの街道近くにあり、多度大社の御祭神が伊勢神宮に祀られている事から別名「北伊勢大神宮」とも呼ばれているそうです。
そして、「お伊勢参らばお多度もかけよ、お多度かけねば片参り」というぐらい、伊勢参宮の際は必ず多度大社をお参りしたとも!?
距離を測ると東海道の「桑名 七里の渡し(伊勢国 一の鳥居)」から多度大社まで約10Kmです。
佐屋街道の「佐屋 三里の渡し」からでも約10Km。
よく歩いた江戸時代の人にとっては10Kmは「すぐそこ」なのです
多度大社といえば、「上げ馬神事」が有名ですね!
写真左側の斜面を馬に乗って駆け上がり、上がった人馬の数や順番等から、その年の農作物の時期や豊凶が占われるようになったそうです。
南北朝時代から始まって600年以上続けられているから凄い!!
三重県無形民俗文化財となっているそうで、これからも受け継いで行ってもらいたいものです
坂を上から見る。最後の垂直の「壁」は2mあるというから驚き
ここからだと地面が見えません
右側の建物も良い感じですね。特等席です!
それもそのはず、歴代の桑名藩主が上げ馬神事を拝観された場所だそうで、多度祭御殿と呼ばれています。(普段は祭の資料を展示しているそうです)
覗き込むと急な斜面の下に地面が見えました
さて、着いた時間が日没近いので早く佐助さんを探さないと暗くなってしまう急げ!
燈籠に灯が点きました!
なんともいい感じです
...なんて悠長な事は言ってられない!急がなくては!
そして燈籠がいっぱい並んでいるところにありました!!
撮影を始めるとどんどん暗くなっていき、スマホで写せるか心配でしたが、なんとかなりました
それでは四面チェック!!
[南面]
一目連社 永代常夜燈
[東面]
尾州名古屋
塩町 近江屋孫兵衛
御園町 杉屋佐助
志水 近江屋市兵衛
[西面]
御師 平野伊豫守
※「豫」は「予」の異体字
[北面]
天保四年 癸巳 十一月
南面の「一目連社」とは別宮(一目連神社)の事で、祭神は「天目一箇命(あめのまひとつのみこと)」となります。
父神である本宮祭神の天津彦根命と共に天候を司る神とも仰がれ、雨乞祈祷の祭典が執り行われたそうです。
特に天目一箇命は、「雨乞い」で東海地方に広くその名が知られており、奈良や滋賀県まで信仰圏が拡がっていたそうです。
踏まえて西面を見みると、「御師 平野伊予守(ひらのいよのかみ)」と彫られています。
調べてみると平野家は多度神社の神主で雨乞い祈祷師でした。
杉屋佐助さんが常夜燈を11月に寄進したのは、本年の雨乞い祈祷のお礼か、来年への祈りを込めたものと考えられますね
さすが米穀問屋を営む杉屋佐助さん!
はっきりと「雨乞い」を目的とする佐助さんの常夜燈は珍しいので貴重ではないでしょうか。
※2023/12/27追記
「雨乞い」というよりは、上でも書きましたが「お多度かけねば片参り」とあるように、多度参りした時にお世話(宿や食事など)になったお礼の意味が強いような気がします。
※10/24追記
『新川町史 通史編』によると、天保4年8月の長雨により名古屋城下では深刻な飢饉となっていたようです。天保の大飢饉の始まりです。
この長雨による飢饉と佐助さんの常夜燈は何かしら関連があるとみて良いのでないでしょうか。
※国立国会図書館デジタルコレクションより引用
これは『東海道名所図会』に載っている多度大社です。
見え辛いですが、中央下の赤枠には「社司平野氏」とあり、雨乞い祈祷の平野家の屋敷が描かれています。
その少し上に「上げ馬神事」が行われる坂っぽいのも見えます。
さて、常夜燈の東面には寄進者の名前が彫ってありますが、佐助さんと仲良しの近江屋市兵衛さん、そして近江屋...孫兵衛さん!?
はて!?初めて目にする名前が出てきました
市兵衛さんと何らかの関わりがありそうなのですが...
最後に御神体山である多度山は米相場を手旗信号で伝える「旗振り山(相場山)」でもありました。
大阪堂島の米相場をいくつか旗振り山を経由して受信。この間わずか10分!
そして受け取った信号を名古屋、岩倉、大垣、揖斐川町などに送っていました。
伊藤萬蔵さんは自宅の櫓からここの信号を読み取っていたそうですよ!?
揖斐川町の旗振り山では杉屋佐助さんが寄進した常夜燈がありましたね!
※解説板には「明治の初めごろ」とありますが、既に佐助さんの時代(江戸後期)には行われていました。
新発見を求めて、佐助さん探しの旅はつづく。
またねー!