自分は3年間CRESTでのポスドクだったが,結構恐ろしい世界だった.
CRESTは,科学技術推進機構が行っている競争的獲得資金で,採択されると1.5億から5億程度の資金が供給される.
GEANT4という放射線用のツールキットを用いて,大強度レーザーで発生させた粒子線でがん治療を行うというプロジェクトであったが,話を聞いた時から,あまり乗る気では無く,断りたかったが断るのに失敗してしまった.
断るのには失敗したが,やるからには全力でやろうと思っていた.
しかし,CRESTの計画書に載っているスパコンは,Alphaチップで,当時のGEANT4で絶対必要な物理学系の計算ライブラリーのコンパイルがどうやっても通らなくて驚いてしまった.あとで聞いた話では,詳しい人はAlphaチップで通らないことを確認していたらしいのだ!なんて風通しの悪い組織なんだろうって愕然としたよ.
結局,Alphaチップに触れるのも初めてで,そのライブラリーは結構な行数があったから,移植作業だけで,下手するとポスドク期間が終了になりかねないので,時間は無駄にできんと思って,Intelのチップが載ったワークステーションで,GEANT4の検討に入った.
けど,当時のGEANT4は,粒子の計算は単一イベントで扱うのが大原則で,レーザーで駆動された陽子線の空間電荷効果によるビーム径の広がりなんて,根本からコードを全部書き直さないと絶対に扱えなかった.ちなみに当時のGEANT4でも40万行あったから,死にそうになったよ.
結局,CRESTのような大きな額の競争的獲得資金も,技術的な検討を全然してなくても作文が上手だったら通るんだよね.これは結構怖い話ですよ.