レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -835ページ目

いい一日だった

今日は堺市美原区での買取り。

美原区は、僕の店の隣の区で、かつては南河内郡美原町と呼ばれていた。

店から自転車で15分もあれば着いてしまう場所なんだけど、

地道が細く入り組んでいる所が多く、車だとなかなかたどり着けない。

今回、依頼のお宅も、対向車とすれ違うことができないような道路を抜けた所にある住宅地にあった。

約束の時間から、若干遅れて依頼者宅に着くと、

玄関口におばあちゃんが立っていた。

「迷ったんかいな?」と、顔をほころばせておばあちゃんが近づいてきた。

僕は車の窓をあけて「そのようです」と。

「本は2階にあるんよ。重うて、よう運ばんのよ。お兄ちゃん、頼めるかな」

と、おばあちゃんが、手招きしながら言った。

僕は、頷いて、空箱やら何やらを準備し、門扉を通った。

玄関口には、中型犬が2匹、仲良さそうに座っていた。

2匹は、首をかしげ、つぶらな瞳で僕をみていた。

僕は一応「こんにちは」と、挨拶した。



2階への階段は急勾配。

この階段を使って、荷物を上げ下ろしするのは、年齢関係なしにきつい。

そう断言できるくらい、急勾配の階段だ。

ここまでの階段はそうそう見たことがない。これは、猫でも落ちるな・・・

しかも、本はずっしりと重い。

で、本を拝見すると、殆どが山岳写真集と全集。

また、よりによって重量のあるものばかり・・・



おばあちゃんは「とにかく、片付けたいんやけんどな。

歳をとってしまってどうにもならんのよ。

亡くなった主人が集めとった本なんで、よう捨てもせーへんし。」

と、ため息をついた。



僕は「分かりました。出来るだけお引き受けします」と言った。

おばあちゃんは「本屋さんにもらわれて行くんやったら、主人も喜ぶわ」と、ニッコリした。

僕はざっと、書架の本を確かめた。

「買取りのお値段ですが」という僕の言葉を制して、おばあちゃんが

「お金は要らんよ。人に片付け物を頼んだら、こちらが払わんならんくらいや」と。

それはダメです。という僕に、ここは行く先短い年寄りの言うことをきいておくれ、とおばあちゃん。

その本は片付け物をしてくれたお礼やがな。という事で引き下がらない。

今回は、僕が折れた。



何往復したことか・・・やっと積み込み完了。

情けないけど、息が切れる。

タオルで汗を拭いていると、おばあちゃんが、栄養ドリンク剤とスポーツ飲料を、僕に差し出した。

「お兄ちゃん、飲んで。大変やったやろ」と。

「本を頂いた上に、飲み物までご馳走になるわけには・・・」という僕に、

「しょうもないこと言うてやんと早よ飲み」

と、おばあちゃん。

僕はお礼を言った。


車に乗り込もうとする僕に、おばあちゃんが

「なあお兄ちゃん、この子たち、全然吼えへんかったなあ」と。

「そういえば、おとなしゅう、行き来を見ていましたねえ」と、僕。

「この子たち、私以外には必ず吼えるのよ。私の子どもや孫にも吼えて困るんよ」

「そうですか。僕、犬は苦手なんですけどねえ。番犬にはなりませんね」

「こんなことは初めてやで。ほんまに不思議やわ」

と、おばあちゃんはしきりに首をかしげている。


僕は、おるかおらんか分からん位の存在なんでしょうな。

なんか、人の温もりを感じるおばあちゃんやったなあ。

いい一日だった。