レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -66ページ目

長い長い歯医者通いが終わった

慌ただしく店を閉めて軽トラに乗り込んだ。

ご近所さんが「繁盛してまんな。なによりや」と。

僕は「おーきに」と言って、手を振った。

急いでいたのは、残念ながら買取依頼ではない。

歯医者の予約時間が押し迫っていたのだ。

ひと月に二回しか予約が取れないので、何としても遅れる訳にはいかない。

この歯医者、先代さんの時から通っているので、あまり気兼ねがない。

スタッフさんとも、時折世間話で盛り上がったりする。

四年前、唐突に奥歯が痛み出し、「先生、ちょっと診てーな」と駆け込んだのが、今回の歯医者通いの始まり。

若先生が「これを機に、徹底的に歯のメンテナンスをした方がよろしいわ」と宣うので、「好きにせよ」と。

そして大の歯医者嫌いが歯医者通いをする事になった。

結局、昔治した歯の殆どの詰め物をやり替えることに。

その間に、小さな虫歯ができたり、奥歯が変に疼き、診てもらったら、肉の欠片が歯間に巧妙に挟まっていたり。

虫歯でもなく、歯茎に問題がある訳でもないのにその周辺が腫れだして、抗生物質で対処したりと、色々あった。

兎も角、こんな長期にわたり歯医者通いをするなんて夢にも思わかなった。

で、今日はその最後の日。その昔、縦に1/4位削って銀を埋めたた歯をやり替える作業だった。

仮に詰め物をあてて、「カチカチ噛んで。はーい。ギリギリと左右に歯ぎしりして」と。

「ちょっと高いですな。ちと、調整しますわ」と、若先生。

僕はゆっくりしておくれと思いながら、診療台に寝ている。

スタッフさんが「起こしましょか?うがいします?」と言うので

「いやいや、お構いなく。寝てますわ。その方が心地いいしね」と。

スタッフさんが「Kenさんは、ほんまに診療台でうたた寝しはる人やからね」と笑う。

うたた寝は極度の寝不足の時に二度しただけだ。

 

大体、四年間も通っていたら、リラックスしない方が不思議だと思う。

「うっしゃ」と若先生が言って、詰め物をあてがった。

「カチカチして」・・・「もう一度カチカチして」と。

そして、試験紙?を取り出して「kenさん、ギリギリと微妙に左右に動かしたでしょ。わざとしたでしょ」と。

僕は、ニンマリ笑った。

「頼んますわ、次の患者さんが待ってますねん。もうこのまま接着しまっせ」と。

「ごめん、ごめん、ちょっとふざけてみただけやがな」

治療がおわり「三か月後に点検にきますわ」と僕が言うと

若先生は「えっ!きますの?」と。

「他の人には『三月に一度、歯の点検にいらしてください』と言うてはるやないですか」

「まあそらそうやけど、kenさん、好き勝手いうからなあ」と。

僕は、「治療にあたって希望と可能性をいうだけやがな。その相談に向かい合うのが良き歯医者の姿勢でしょう」言うと

「分かった、分かった、では三か月後ね。忘れてもよろしいで」

そんなこんなで、僕の長い長い歯医者通いが終わった。