レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -381ページ目

走る師匠と店のこと

「ちょっと店の雰囲気が変わったがな」と言いながら、師匠がやってきた。

流石、師走。我が師匠も走り回っていらっしゃるようだ。



「師走」・・・不思議な言葉だ。

弟子が走り回るのなら兎も角、

師を走り回らせてはいけないのではないかと・・・

師走の語源は諸説あるようだが、

師である僧がお経をあげる為に四方に馳せるというのが僕にはしっくりくる。

そんな事はどうでもよいか。
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毎月、今月こそは飛躍の第一歩を踏み出すぞと意気込むばかりで

いつの間にやら師走に突っ込んでしまった。

そうこうしながら、やり掛けたまま冬眠しているものを数えるとキリがない。

何をやっても中途半端で何とも頼りない。

僕のお気楽な所は、冬眠している彼らはいつかムクッと目を覚まし

よっこらせと動き出すに違いないと信じている所だ。



「今日は、お近くに来られていたのですか?」と僕。

「ほん近くの○○さんところが廃業する言うんで、その手伝いや」

「えっ、○○さんですか?」

「そやがな、どうにもならんらしいわ」

「幹線道路の一等地やないですか」

師匠は、頷きながら、椅子に腰をかけた。

こういう話を聞くと何とも身につまされる。

「まあそれはそれとして、本の方はどうだえ?」

「ぼちぼちですが、ようはないです」

「本の置き場に、こんなにスペースいらんのちゃうの」と、真顔で師匠が言った。

「多分、半分もあればいけるでしょうけどね・・・」

「本以外もあれこれ扱こうたらええねん。

本の売買を続けるにはそれなりに店の体力もいりますやろ」

「おっしゃる通りで」

「よろず買い取っているとな、そらおかしな物が集まってくる。

この店はそんなに大きゅうはないけど、天井が高い。

それは結構、強みになるんやで。

本を集めるんやったら本以外も扱うこっちゃ」

「ちょっとばかし、禅問答みたいですが」

「そんなたいそうなもんちゃう。窓口を増やせっちゅうこっちゃ。

例えばな、絵画を引き取って欲しいというお客が

本も処分したいという事もある。絵画も本も買い手はある」

「なるほど」と、僕は小さく頷いた。

かつて、師匠は駅前でリサイクル品とアンティーク品の店を営んでいた。

かなり大きな店で、僕もよくお手伝いをさせて頂いた。

僕にはとても師匠ほどの商才もないし、器用さもない。

僕のような商才のない人間が商売をしているというのは、

もうこれは大変な事なのである。

僕も真顔で訊ねた。「とんでもないものを持ってきはったらどうしますの?」

「大丈夫、何とかなる。ワシなんて山をこうたがな」

確かに、師匠は河内長野市に山を持っている。

「師匠、あの山は相続されたものやなかったんですか?」

「いや、お得意さんが山売りたいねんと言うてきたさかい、

まあ何かの足しになるやろ思うてこうたねん」

「師匠は資金があるからいいですけど、

とんでもない骨董品を持ってこられたら僕には買えませんで」

「ワシに連絡してきたらええ。

それより、店の土台をしっかりつくることをいっとう先にお考え」

ほんじゃまた、という仕草をして師匠は帰って行かれた。


今、店の外壁には「何でも買います」の看板が掛かっている。

そんな看板を掛けておきながら、無責任に僕は思う。

きっと思いもよらないものが持ち込まれるぞ。

査定なんてできないぞ・・・どうする?



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