郷愁
本格的に実家の整理に取り掛かりはじめた。
見慣れた部屋。
目を閉じても、どこに何が置かれているか分かる。
普段開けていなかった押入れやら物置をのぞくと、懐かしい品々が出てくる。
僕が子供時代に遊んだ玩具も
丁寧にビニールを被せて置いてあった。
それを手に取って見つめていると、
今がいつの時代で、一体自分は何をしているのか分からなくなる。
隣の部屋から、父や母が
「お~い、ケン。いつまでマンガを読んでる。焼き芋が出来てるぞ」
と、僕を呼ぶ声が聞こえてきそうだ。
窓の外をのぞくと、幼なじみたちが家の角から
笑いながら転げ出てきそうな気さえする。
グローブやバットを抱え、
膨らんだズボンのポケットからはカチャカチャとビー玉の音がする。
やがて、玄関扉を無造作に開く音がして、
「ケンちゃ~ん、あそぼ~」と、懐かしい声がする。
「ちょっと、あがっていきや。焼き芋があるで」と僕。
・
・
・
・
「Kenさん、これどうする?」
背中から家内の声がして、僕ははっと現実に戻った。
家内がにっこり笑って言った。
「旅にでてた?」
僕は頷いた。
目の前には、役目を終えた家具たちが、静かに眠っていた。
我が育った家が取り壊されるというのは、
想像以上に堪えるものだ。
今の今まで、僕は実に淡々としていた。
そして、作業も淡々と進むものと思っていた。
唐突に、「家というのは単に寝食の場ではない。
かけがえのない思い出たちが、ぎっしり詰まっている場所なのだ」
と気がついた。
僕の育った地区は大規模な再開発が入り、その中心部は殆ど元の形跡を残していない。
こ洒落た家が建ち並び、高層マンションが天に突きだし、整備された緑地が点在する。
見慣れた駄菓子屋はコンビニにかわり、銭湯のあとは、駐車場になっていた。
よく通った散髪屋のカタカタ回る赤と青の看板は外され、
カット&ビューティー○×という木目調の看板にかわっていた。
悪がきと呼ばれた僕たちの隠れ家はもうない。
一通りの段取りがつき、帰途につく時、ばったり幼なじみに会った。
お互い、びっくりして「うわっ」と。
で、理由もなく、ケタケタと笑いあった。
彼女はまだ、この町に住んでいるという。
そして、「随分町も人も変わってまった」と。
彼女は少し寂しそうだった。
そして別れ際、「ねえ、小学校への通学路、まだ残っているよ」と、その方向を指差した。
僕は「そうか、またな」
と、言って車に乗り込み、通学路をゆっくり走ってみた。
通学路はびっくりするほど幅員が狭く、いつの間にやら一方通行の標識が立っていた。
よく遊んだ路地裏は猫の額くらいにしか見えなかった。
子供の頃は、とても広く感じていたのに・・・
きっと、夢がいっぱい詰まった場所だったんだ。
みんなどうしているのだろう?
どこかの空の下で、あくせく生活をしているのだろうか?
それとも、昔を懐かしんで流れる雲を見つめているのだろうか?
その夜はなかなか寝つかれなかった。
どうも心を少年時代に置いてきてしまったようで、
スマホをみても本を開いても、ザワザワと気持ちが落ち着かない。
ふと「郷愁」とはなんて物悲しい響きなのだろうと思った。
妹が逝き、父が逝き、母がグループホームに入所した。
父と母が夢と希望に満ちてつくった家族は消え、
僕がそれを引き継ぎ新しい家族をつくっていく。
やがて、我が子がまた新しい家族をつくるだろう。
きっとそれでいいのだ。
うん、それでいいのだ。
見慣れた部屋。
目を閉じても、どこに何が置かれているか分かる。
普段開けていなかった押入れやら物置をのぞくと、懐かしい品々が出てくる。
僕が子供時代に遊んだ玩具も
丁寧にビニールを被せて置いてあった。
それを手に取って見つめていると、
今がいつの時代で、一体自分は何をしているのか分からなくなる。
隣の部屋から、父や母が
「お~い、ケン。いつまでマンガを読んでる。焼き芋が出来てるぞ」
と、僕を呼ぶ声が聞こえてきそうだ。
窓の外をのぞくと、幼なじみたちが家の角から
笑いながら転げ出てきそうな気さえする。
グローブやバットを抱え、
膨らんだズボンのポケットからはカチャカチャとビー玉の音がする。
やがて、玄関扉を無造作に開く音がして、
「ケンちゃ~ん、あそぼ~」と、懐かしい声がする。
「ちょっと、あがっていきや。焼き芋があるで」と僕。
・
・
・
・
「Kenさん、これどうする?」
背中から家内の声がして、僕ははっと現実に戻った。
家内がにっこり笑って言った。
「旅にでてた?」
僕は頷いた。
目の前には、役目を終えた家具たちが、静かに眠っていた。
我が育った家が取り壊されるというのは、
想像以上に堪えるものだ。
今の今まで、僕は実に淡々としていた。
そして、作業も淡々と進むものと思っていた。
唐突に、「家というのは単に寝食の場ではない。
かけがえのない思い出たちが、ぎっしり詰まっている場所なのだ」
と気がついた。
僕の育った地区は大規模な再開発が入り、その中心部は殆ど元の形跡を残していない。
こ洒落た家が建ち並び、高層マンションが天に突きだし、整備された緑地が点在する。
見慣れた駄菓子屋はコンビニにかわり、銭湯のあとは、駐車場になっていた。
よく通った散髪屋のカタカタ回る赤と青の看板は外され、
カット&ビューティー○×という木目調の看板にかわっていた。
悪がきと呼ばれた僕たちの隠れ家はもうない。
一通りの段取りがつき、帰途につく時、ばったり幼なじみに会った。
お互い、びっくりして「うわっ」と。
で、理由もなく、ケタケタと笑いあった。
彼女はまだ、この町に住んでいるという。
そして、「随分町も人も変わってまった」と。
彼女は少し寂しそうだった。
そして別れ際、「ねえ、小学校への通学路、まだ残っているよ」と、その方向を指差した。
僕は「そうか、またな」
と、言って車に乗り込み、通学路をゆっくり走ってみた。
通学路はびっくりするほど幅員が狭く、いつの間にやら一方通行の標識が立っていた。
よく遊んだ路地裏は猫の額くらいにしか見えなかった。
子供の頃は、とても広く感じていたのに・・・
きっと、夢がいっぱい詰まった場所だったんだ。
みんなどうしているのだろう?
どこかの空の下で、あくせく生活をしているのだろうか?
それとも、昔を懐かしんで流れる雲を見つめているのだろうか?
その夜はなかなか寝つかれなかった。
どうも心を少年時代に置いてきてしまったようで、
スマホをみても本を開いても、ザワザワと気持ちが落ち着かない。
ふと「郷愁」とはなんて物悲しい響きなのだろうと思った。
妹が逝き、父が逝き、母がグループホームに入所した。
父と母が夢と希望に満ちてつくった家族は消え、
僕がそれを引き継ぎ新しい家族をつくっていく。
やがて、我が子がまた新しい家族をつくるだろう。
きっとそれでいいのだ。
うん、それでいいのだ。