春燕 | レトロショップ成穂堂 (なるほどう)ケンの苦悩と爆笑の日々

春燕

3月下旬、店近くの池前を通り過ぎようとしたら、幾つもの黒い影が飛び交っているのが目に入った。

思わず「おっ、ツバメ!」と、声が出た。

今年は飛来が少し早い気もするが・・・

水面近くを10羽程のツバメが勢いよく舞っている。

去年は、4、5羽見かけた。

一昨年は2、3羽しか見なかった(と思う)ので、もう店近くでツバメを見るのは最後かと寂しい思いをした。

だけど、徐々に数が増え出しているようで、なんだか嬉しい。

前回のブログの続きのような内容になるが、

池の上を飛び交うツバメを見ると、従弟のいた学生アパートを思い出す。

遠い遠い昔の事だ。

その一帯は雑木林や竹林が広がっていて、夏になれば蒸せるような草の匂いがした。

駅前は緩やかな坂道なのだが、ちょっとした住宅地を抜けると、その勾配はぐんと角度を増す。

その急坂を上り始めるとすぐに大きな池が現れる。

池の近くに巣があったのだろうか、餌になる昆虫が多くいたのだろうか、幾羽ものツバメが飛び交っているのをよく見かけた。

池に沿って道路が続いており、その道路を覆うように木々の枝がのびていた。

池から先は、まるで山間部にでもいるような錯覚を覚えたものだ。

目に映るものは、痛いほどの青空と濃い緑。

聞こえるのはカエルとセミの鳴き声、時折、何か分からない鳥の声。

勿論、ツバメの姿もあった。

民家は駅前を除くと丘を上り切った一角に集中していた。

丘の上の町は、昭和の中期くらいから時が止まったような風景だったと思う。

確かに他とは違う時間が流れていた。

社会に出てから10年程して、一度その地を訪ねた事がある。

上り下りした坂道は幅員が広がり、丘の上は新しく道路が通り、きれいに整備されていた。

既に池もなく、学生アパートを見つける事も出来なかった。

そこには僕の見知らぬ町並みがあり、なんだか奇妙な気持ちになった事を覚えている。

この記事を書きながら、ふとGoogleマップを開いてみた。

ストリートビューを見ると、どこがどこだか分からない。

もう無理矢理、小高い丘を切り開いたような町ではなく、以前訪れた時よりさらに様変わりしているようだ。

根気よくみていくと、池跡と学生アパートが並んでいたらしき通りは分かった。

かつての学生アパート群はマンションに建て替わっていた。

きっと今は学生マンションとして賑わっているのだろう。

 



いやひょっとすると、あの隔絶されたような丘の町は異世界だったのかも知れない。

そして、山道のような坂道はその異世界への入り口であり、あの濃い緑の池はその目印だったのかも知れない。

本当は、そんな町など存在せず、そんな出来事もなく、まどろむように見た夢を現実の出来事のように思い込んでいるだけなのかも知れない。

こんなことを思うのも春の怪しげな陽気の悪戯か。