僕の情けない話をしよう
唐突に女性の声がした。
「やるべき事は分かっているのでしょ」
僕はびっくりして目をあけ、まわりを見渡した。
部屋はしんとしていた。
閉店後、事務所のソファに寝転び考え事をしていた。
が、そのままウトウトとしてしまったようだ。
夢にしては余りにも鮮明な声だった。
声は、どこか聞き覚えのあるものだった。
ふと子供の頃を思い出した。
少年kenは時おり不思議な声を聞いた。ごく短い言葉で。
母は、それは空耳というものだと言った。
事務所で聞いた声は、覚醒時の脳のイタズラだ。
人の日常は空耳で満たされているらしい。
それは、世界を認識するための脳の巧みな戦略でもあると、何かの本で読んだ。
人は絶え間なく飛び込んでくる音の塊の中から、
実に巧みに必要な音だけを掬い上げる。
そして、自分に都合のよいように理解する。
あたかも、物事の真実を突き止めたかのように。
時として自分への戒めとして、理解する事もある。
・
・
・
・
・
そんなに悠長に構えている時間はない。思うほど人生は長くない。
「また今度な」と言って別れた友が、
二度と戻らない人となったのを幾度か経験している。
そんな年齢でもないのに・・・
兎に角、走りながら考えろ! そんな焦りが、僕の神経を蝕む。
実はずっと以前から気付ていた事がある。
新刊屋から古本屋、そして骨董屋。
いつしか、本に携わる時間は少なくなっているが、変わらず仕事は楽しい。
果たして、僕は本屋の何が好きだったのだろう?
サラリーマンとして書店勤めをしていた時代、
僕は販売員の基本である接客的な仕事にはとんと向かず、
つまらない仕掛けづくりをしたり、仕組みづくりをするのが好きだった。
本部が僕を店舗から引き上げようとしたのも頷ける。
辞令と共に僕は社を去るのだが、恐らくそれは適切な人事だったと思う。
多分、僕は学生時代、本屋でバイトをしていたというだけで、
本屋になりたい、それが僕の天職だと思い込んでいたのだと思う。
長年本を扱っていると、それなりに知識もつくし、好きなカテゴリや作家も出来る。
本の大切さも、町の本屋の必要性も見えてくる。
今でも入手した本を検品と称して読むのは楽しい。
本の匂いも好きだ。本屋にいるのはこの上もなく楽しい。
だけど、それと我が適正とは別物だという事も分かってくる。
ややこしい事は考えず、このまま気づかぬ振りをしている方が楽だ。
とうの昔に家内は僕に言っていた。
「本当にやりたい事をやってる?」
消灯した後の誰もいない店内・・・僕は腕組みをし、しかめっ面で暗闇を凝視している。
「やるべき事は分かっているのでしょ」
僕はびっくりして目をあけ、まわりを見渡した。
部屋はしんとしていた。
閉店後、事務所のソファに寝転び考え事をしていた。
が、そのままウトウトとしてしまったようだ。
夢にしては余りにも鮮明な声だった。
声は、どこか聞き覚えのあるものだった。
ふと子供の頃を思い出した。
少年kenは時おり不思議な声を聞いた。ごく短い言葉で。
母は、それは空耳というものだと言った。
事務所で聞いた声は、覚醒時の脳のイタズラだ。
人の日常は空耳で満たされているらしい。
それは、世界を認識するための脳の巧みな戦略でもあると、何かの本で読んだ。
人は絶え間なく飛び込んでくる音の塊の中から、
実に巧みに必要な音だけを掬い上げる。
そして、自分に都合のよいように理解する。
あたかも、物事の真実を突き止めたかのように。
時として自分への戒めとして、理解する事もある。
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そんなに悠長に構えている時間はない。思うほど人生は長くない。
「また今度な」と言って別れた友が、
二度と戻らない人となったのを幾度か経験している。
そんな年齢でもないのに・・・
兎に角、走りながら考えろ! そんな焦りが、僕の神経を蝕む。
実はずっと以前から気付ていた事がある。
新刊屋から古本屋、そして骨董屋。
いつしか、本に携わる時間は少なくなっているが、変わらず仕事は楽しい。
果たして、僕は本屋の何が好きだったのだろう?
サラリーマンとして書店勤めをしていた時代、
僕は販売員の基本である接客的な仕事にはとんと向かず、
つまらない仕掛けづくりをしたり、仕組みづくりをするのが好きだった。
本部が僕を店舗から引き上げようとしたのも頷ける。
辞令と共に僕は社を去るのだが、恐らくそれは適切な人事だったと思う。
多分、僕は学生時代、本屋でバイトをしていたというだけで、
本屋になりたい、それが僕の天職だと思い込んでいたのだと思う。
長年本を扱っていると、それなりに知識もつくし、好きなカテゴリや作家も出来る。
本の大切さも、町の本屋の必要性も見えてくる。
今でも入手した本を検品と称して読むのは楽しい。
本の匂いも好きだ。本屋にいるのはこの上もなく楽しい。
だけど、それと我が適正とは別物だという事も分かってくる。
ややこしい事は考えず、このまま気づかぬ振りをしている方が楽だ。
とうの昔に家内は僕に言っていた。
「本当にやりたい事をやってる?」
消灯した後の誰もいない店内・・・僕は腕組みをし、しかめっ面で暗闇を凝視している。