師匠の奇妙な行動
何がご縁だったかは思い出せない。
いつの頃からか、僕は本業の傍ら師匠の店を手伝うようになった。
そこには、見慣れぬおかしなものが無造作に置かれていた。
何か凄そうだと感じるものもあるし、
そこらのゴミと変わらないものもある。
骨董品や我楽多品、単なるリユース品を
ごちゃ混ぜにしたその店は、何とも魅力的だった。
今日の僕があるのはそんな店を持つ師匠のお陰だ。
最近、その師匠がちょこちょこと仕事道具を下さる。
「困らないのですか?」と聞くと、
「大丈夫、余分があるから」と仰る。
そう言えば、この間はふいに陳列棚を2本運んで来られた。
何か怪しい。
昨日、師匠から預かっていた総花梨の座卓が売れたので、
一緒に配達に行って頂いた。
余談だが、花梨という木は、見事な色艶を出すが、兎に角、重い。
売買値も一般的な座卓より一桁重い。
一生ものと言ってもいいが、
今どきこんな座卓を使うお宅があるのかと、少し驚きもする。
配達から戻り、お茶をすすりながら、
「師匠、やっぱり軽トラは必需品ですよね」と言うと
「もうしばらく辛抱し。ワシの軽トラ、使こうたらええさかい」
と、師匠がぽろっと言った。
僕は「どういう事です?」と、師匠に詰め寄った。
「いやいや、実はな息子が足腰が立つうちに
そのなんだ、え~、近くに越して来ないかちゅうもんやから、
そのなんだ、え~、家内と話しおうて、そのなんだ・・・」
「師匠、この間は足腰が立つ間は
この地は離れんて言うてはったやないですか」
「まあ、そのつもりやったんやけど、
そのなんだ、え~、息子の仕事が余りにも忙しいんで、
そのなんだ、え~、少しは孫どもの世話を手伝わんとですな・・・」
「師匠、ご子息の近所言うたかて、
あの町は坂ばかりで、暮らすにはしんどいですよ」
「せやから、少し坂の緩やかな所にしてんがな」
「えっ、してんがなって?」
「もう、こうてもた」
僕は呆気にとられた。
ご子息が暮らす一角は、阪神間の閑静な住宅地。
六甲の麓に位置するので、基本が坂道なのだ。
「師匠、百歩譲って坂道は大丈夫としましょう。
ですけど師匠、スーパーにさえつっかけで行けませんで。
百姓家から野菜を買う訳にもいきませんで。
軽トラは言うに及ばず、ちんけな車にも乗れませんで。
耐えられますか?」
「大丈夫やろ。すぐに慣れるわな」
いくら僕が言った所で、すでに住居の手配も終わっているし、
今更、どうしょうもない。
この所の行動がおかしかった訳である。
「では、隠居なさるのですか?」と、僕が真顔で聞くと
「それとこれとは別や。大きな品を扱わんだけや。
得意先もみな堺におるんで、こちらには頻繁に来るで。
勿論、kenさん所にも寄るわな」
僕は暫く黙りこんだ。そして、ぼそりと言った。
「仕方ない。その軽トラ、譲り受けましょ」
師匠と出会ってかれこれ20年が経つ。
いい加減な僕に商売の考え方、
商品の知識を根気よく教えて下さった。
懐の深い方で、僕にとって我が父のような存在だ。
これからも教わる事は山ほどある。
いやこれからが本番と言っていい。
師匠は懐をごそごそとし、
「ほらっ、ワシもスマホデビューや。LiNEも入れてるで。
取りあえず、分からんものを買い取る時は、画像を送っといで」
と、笑った。
スーパーじいさんだと、ホトホト感心する。
ご子息からは、予々隠居してゆっくり暮らして欲しいと言われているようだが、
師匠は暇があれば、商売の事を考えてらっしゃる。
師匠にとって商売は仕事ではないのだろう。
趣味が高じて商売になっただけである。
僕も似たようなものだから、それがよく分かる。
ご子息さん、師匠の健康を気遣うなら、
もうしばらく好きなように遊ばせてやっておくれ。
今、隠居されたらおいらも困る。
いつの頃からか、僕は本業の傍ら師匠の店を手伝うようになった。
そこには、見慣れぬおかしなものが無造作に置かれていた。
何か凄そうだと感じるものもあるし、
そこらのゴミと変わらないものもある。
骨董品や我楽多品、単なるリユース品を
ごちゃ混ぜにしたその店は、何とも魅力的だった。
今日の僕があるのはそんな店を持つ師匠のお陰だ。
最近、その師匠がちょこちょこと仕事道具を下さる。
「困らないのですか?」と聞くと、
「大丈夫、余分があるから」と仰る。
そう言えば、この間はふいに陳列棚を2本運んで来られた。
何か怪しい。
昨日、師匠から預かっていた総花梨の座卓が売れたので、
一緒に配達に行って頂いた。
余談だが、花梨という木は、見事な色艶を出すが、兎に角、重い。
売買値も一般的な座卓より一桁重い。
一生ものと言ってもいいが、
今どきこんな座卓を使うお宅があるのかと、少し驚きもする。
配達から戻り、お茶をすすりながら、
「師匠、やっぱり軽トラは必需品ですよね」と言うと
「もうしばらく辛抱し。ワシの軽トラ、使こうたらええさかい」
と、師匠がぽろっと言った。
僕は「どういう事です?」と、師匠に詰め寄った。
「いやいや、実はな息子が足腰が立つうちに
そのなんだ、え~、近くに越して来ないかちゅうもんやから、
そのなんだ、え~、家内と話しおうて、そのなんだ・・・」
「師匠、この間は足腰が立つ間は
この地は離れんて言うてはったやないですか」
「まあ、そのつもりやったんやけど、
そのなんだ、え~、息子の仕事が余りにも忙しいんで、
そのなんだ、え~、少しは孫どもの世話を手伝わんとですな・・・」
「師匠、ご子息の近所言うたかて、
あの町は坂ばかりで、暮らすにはしんどいですよ」
「せやから、少し坂の緩やかな所にしてんがな」
「えっ、してんがなって?」
「もう、こうてもた」
僕は呆気にとられた。
ご子息が暮らす一角は、阪神間の閑静な住宅地。
六甲の麓に位置するので、基本が坂道なのだ。
「師匠、百歩譲って坂道は大丈夫としましょう。
ですけど師匠、スーパーにさえつっかけで行けませんで。
百姓家から野菜を買う訳にもいきませんで。
軽トラは言うに及ばず、ちんけな車にも乗れませんで。
耐えられますか?」
「大丈夫やろ。すぐに慣れるわな」
いくら僕が言った所で、すでに住居の手配も終わっているし、
今更、どうしょうもない。
この所の行動がおかしかった訳である。
「では、隠居なさるのですか?」と、僕が真顔で聞くと
「それとこれとは別や。大きな品を扱わんだけや。
得意先もみな堺におるんで、こちらには頻繁に来るで。
勿論、kenさん所にも寄るわな」
僕は暫く黙りこんだ。そして、ぼそりと言った。
「仕方ない。その軽トラ、譲り受けましょ」
師匠と出会ってかれこれ20年が経つ。
いい加減な僕に商売の考え方、
商品の知識を根気よく教えて下さった。
懐の深い方で、僕にとって我が父のような存在だ。
これからも教わる事は山ほどある。
いやこれからが本番と言っていい。
師匠は懐をごそごそとし、
「ほらっ、ワシもスマホデビューや。LiNEも入れてるで。
取りあえず、分からんものを買い取る時は、画像を送っといで」
と、笑った。
スーパーじいさんだと、ホトホト感心する。
ご子息からは、予々隠居してゆっくり暮らして欲しいと言われているようだが、
師匠は暇があれば、商売の事を考えてらっしゃる。
師匠にとって商売は仕事ではないのだろう。
趣味が高じて商売になっただけである。
僕も似たようなものだから、それがよく分かる。
ご子息さん、師匠の健康を気遣うなら、
もうしばらく好きなように遊ばせてやっておくれ。
今、隠居されたらおいらも困る。