向こう三軒両隣というが
1月14日、凍てつくように寒い日のこと。
重厚な門扉のロックナンバーを解除して
玄関ドアまでの飛び石を伝いながら歩く。
・・・てな大層な家ではない。
用事から戻り、薄っぺらな玄関に立とうとしたら、
その手前に護符のようなものが貼り付けてあった。
護符にしては何の文様もないし、でたらめにテープ止めしてある。
一緒にいた家内に「はやり、これは何かの護符かね?」と尋ねると、
「何かな?いつ貼ったのか知らないけど、挑戦状かな」
「なんの挑戦やねんな?どこから、そんな発想が湧くねんな」
聞くだけ無駄だった。
何にしてもはずしてみようという事で手にとって見ると、
それは三つ折にされた和紙便箋だった。
開いてみると、達筆で候言葉が綴られているように見えた。
お隣のおばあさんからのものだった。
知人宅が、本を処分したいと言っているので、
引き取ってやってくれないかと、いう事だった。
そして、先方のお名前と連絡先が書いてあった。
その直後、店から「○○さんに急ぎ連絡をして下さい」
という連絡があった。
同件だろう。
しかし、なぜわざわざそんな貼りづらい所に便箋を貼ったのだろう?
間違いなく、おばあさんはこめかみにシワを寄せながら、
両手足を精一杯伸ばしプルプルしながら貼ったはずだ。
その証拠が、あのでたらめなテープ止めだ。
ポストの見忘れを懸念したのであろう。
そんなの推理してどうなる・・・
お隣のおばあさんは町の顔役で、じっと自宅にいらっしゃらない。
念の為にインターホンを鳴らしてみたが、
うんともすんとも返答がない。
兎も角、僕はその連絡先に電話を入れた。
「医学専門書で少し多いですが、
お役に立つようでしたら引き取って下さい」との事だった。
自宅から、ほんの5分くらいの所だったので、
早速伺ってみると、その量に唖然とした。
どう見積もっても1,000冊はある。
「毒学」という特殊な分野?の研究をなさっていた方で、
これまで見たこともないような専門書が積み上げられていた。
中には洋書の専門書もある。
一般書やら文庫など取り混ぜて1,000冊くらいというのはある。
しかし、これだけの専門書を一度に見るのは稀だ。
これをこの場で見積もるというのは僕には至難の業だ。
一度お預かりして、見積もるしかないかと思っていると、
代金は要らないという。
ご夫妻は「みなさんに助けられたからこそ今日の自分があります。
あなたのお店の役に立ち、それが然るべき人の手に渡ればそれが一番です」と。
「あの中途半端な代金ではないと思いますが」
と言ったが、にっこり微笑まれるだけだった。
結局押し切られるような格好で、僕は荷詰めを始める事になった。
専門書なので、一冊一冊が重い。家内と2人だと日が暮れても終わらない。
だけど、自宅から近いというのが幸いだった。
子ども達も含め一家総出の荷詰めとなった。
車に積み込みが終わって、一息つくていると
奥さんが「これうちで作ったものです。ちょうど食べ頃です」
と言って、ハッサクを一箱下さった。
僕達は深々とお礼をして、そのお宅をあとにした。
僕も家内もこのままでは余りにも気持ちが済まないので、
ちょっとした届け物をする事にした。
潔く凛とした生き方というのは、こういう方の事をいうのだろうか。
向こう三軒両隣というが、そんな狭い範囲ではなく
僕も多くの人たちに助けられて生きている。
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