血のにじむような努力の向こうに | レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々

血のにじむような努力の向こうに

いつものようにジーンズに足を通すと、

膝上あたりに、口をあけるように亀裂が入った。

少し触ってみると、ワラワラと幾筋もの白い繊維が顔を出し、

ぽっかり割れたようになっているのが分かる。

相当生地が弱っているようだ。

長年愛用してきたので、何とかしたい。

家内に「裏側から当て布などをして、

格好よく修理してほしい」

と、頼んでみた。

家内はその大きなほころびを見て

「無理」と、一言。

「今時の若者は、わざわざ穴のあいたやつや、

破いた所をジグザグに縫ったようにしたものをはいていますがな。

あんな風にしておくれ」

「あのね。あなた、いくつなの?

あなたがそんなのはくと、洒落にならないでしょ」と、家内。

「なに?どうして、洒落にならないの?おしゃれでしょうが」

僕は、執拗に食い下がった。

「それに、ミシンがうまく掛けられるような場所じゃないし、新しいのあるでしょ」

と、やはり相手にしてくれない。

このジーンズ、どこのメーカーのものか知らないが、

兎に角、はきやすい。

そう簡単に捨ててなるものか。

僕がシゲシゲと見ていると、家内が

「ろくな風にはならないよ」

と言って、当て布を探し出した。

僕はニンマリし、

「今日はゆっくりしたらいいからね~」

なんて言い残して、仕事に出掛けた。

やがて、家内からメールが届いた。


$疾走する古本屋!成穂堂〔なるほどう〕店主の苦悩と爆笑の日々-ジーンズ


おっ、出来たか!とほくそ笑みながら、メールを開くと、

「指も一緒に縫った。へっ(ノ_・。)」

と、状況の分からない内容が書かれていた。

家内に電話を入れて様子を聞くと、

上下反転させて、最後の直線を縫おうと手を動かした時に、

針が左人指し指の爪上に落ちてきた。

針は爪上を左に滑り、指先を貫通したという事だった。

吹き出す血をみて、子ども達も慌てふためいていたようだ。

いやあ、想像するだに痛々しい。

針のような細いものだったので、

すでに血は止まっているが、

心臓の鼓動に合わせてズキンズキンとするらしい。

ろくなことにならなかったのは家内の指先だった。

確かに洒落にもならなかった。

「大丈夫かえ?」と聞きながら、

体のどこぞに突き刺さった矢を引き抜く映画の場面が

頭をよぎっていた。

いらん事を言って、危うくしばかれるところだった。


それにしても申し訳なかった。

身を挺して繕ってくれたジーンズ、大切にはかせてもらうぜ。

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