買取は通り雨と共に | レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々

買取は通り雨と共に

「本の引き取りお願いできますか?」

受話器の向こうからおっとりしたご婦人の声がした。

少し内容をお聞きして、早速お伺いすることになった。

お話では、単行本、文庫本あわせても50冊程度しかなく、

すぐ近くにある大手チェーンでは買取りに来てもらえないという事だ。

で、お住まいの隣の区にあるうちに問合せをして頂けたようだ。

本の買取が減っている昨今、うちにとっては有難いことだ。

僕は、食べかけの昼食をそのままにして出掛ける準備をした。

ダンボール箱やカートなどを確認して

いざ出掛けようとしたら、

大粒の雨がボタンボタンという感じで降りだした。

雨はあっという間に豪雨のようになり、

また雷かという様相を帯びてきた。

小雨なら兎も角、これだけ凄まじい勢いの雨だと、

本の運び込みは難しい。

暫らく、様子をみるしかない。

僕は家内にご婦人宅に状況を連絡してもらい、

その間に食べかけの昼食をかき込んだ。

早食いは元体育会系の得意技だ。

連絡を終えた家内が、

「えっ、そちらは雨ですか?って、びっくりしてはったよ」と。

隣の区といっても、うちの店とご婦人宅は、3、4Kmもあるかどうか。

天気とはおかしなものだ。

雨はほんの10分程であがった。

何ともすさまじい通り雨だった。

僕は、家内に

「じゃあ行ってくるぜ。本の量、多分、おっしゃっている数倍はあると思うぜ。

楽しみにしていておくれ」と、威勢よく飛び出した。

火打石を持って「あんた、お待ちな」という縁起担ぎはない。


ちょっとして貰いたい気もする・・・


ここらあたりの天候は、東から西へ流れる事が多い。

位置的にはうちが東、ご婦人宅が西。

ちょっとばかり、いやな予感がする。

少し走ったところで、そんな予感は見事に当たった。

どうせ当たるなら宝くじがよいのに。

僕は雨を追いかけるような格好で車を走らせているようだ。

ご婦人宅に着いた時、僕はかなりの雨の中にいた。

ダンボール箱やカートの準備が出来ず、しばし車中で待機。

お宅にお邪魔した時、ご婦人が

「あなた、雨降り小僧のご親戚の方?」

と言って笑っていらっしゃった。


買い受けた本は、どれもとても丁寧に読まれており、内容もよかった。

中でも、新潮社版村上春樹氏の

1Q84を始めとした作品が全冊揃っていたのが、

僕としては、何度も頷く程嬉しかった。

同時に「いいのですか?」

と、僕はご婦人に聞いてしまっていた。

ご婦人は

「村上春樹とパール・バックは、

手放そうかどうか最後まで悩んだのですよ。

でも、整理しながら本を購入していこうと決めたので、

喜んで頂ける方の手元にいってくれればよいかと思います」と。


買受冊数は、ほぼ200冊ほどだった。

大手チェーンさんよ、あまいぜ。

経験上、こういった冊数の膨らみに、気がつかないのだろうか?

なぜ、それだけ目安が狂うのか、僕には分からないが、

買取りに行く際は、まず間違いなくお申し出の数倍程度の量がある。



それよりも、千里の道を来てほしいと言っている訳じゃない。

歩けるほどの距離じゃないか。

お話を聞いても、本を運び出す体力に問題があるのと、

足がないのが分かる。

機嫌よく行ってさしあげなよ。

効率を考えるのも商売だろうが、全てがそうじゃないだろう。

少し憤慨する僕であった。


ところで、店に戻る途中、またざあざあと雨が降りだした。

東に向かっているのに、ウソでしょと、僕は呟いた。

勿論、店の辺りはしっかり雨だった。


ひょっとすると、僕は遠い昔、雨降り小僧と何か約束をしたのかも・・・


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