今日までそして・・・ | レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々

今日までそして・・・

「どうしていいか分からない時に、読むといい本ありますかね?」

店内で作業をしている時、背後からふいに声がした。

振り向くと小柄な男性が立っていた。

僕は「はい?」と、言った。

先週、新刊屋にメンテナンスに行った時の話だ。

余りに唐突だったので、

何をどう答えていいか分からなかった。

よく顔を見ると、

先日、「死にたくなったら・・・」と、言う本を問い合わせて下さった方だ。

馴染みさんとまではいかないが、

何度か雑談をした事がある。

確か芸能関係の方が書かれた本だったと思う。

てっきり、洒落で読まれるのだろうと思っていた。


今日は、どう控え目に見ても、精気というものを

どこかに置き忘れて来てしまったような印象を受けた。

これは洒落にならない。

手には、何冊かお選びになった本をお持ちになっている。

如何にもという、流行ものの本だ。

僕は「取り敢えず、今持たれている本は、お薦めできません」と、言った。

いやあ、思わずきっぱりと言ってしまった。

人に薦められない本を置いている本屋ってどうよ?と思うけど、

店の規模を考えると、そう理想通りにも行かないだろうと思う。

そのお客は、僕にポツポツと話し始めた。

暫くその方とお話して、1冊の本をお薦めする事にした。

昔からある本で、加藤諦三氏の著作物だ。

少しはものの捉え方のヒントになればと思った。


生き方や考え方を説いた本には

「右足が沈まないうちに左足を踏み出す。

そして、左足が沈まないうちに右足を踏み出す。

それを交互に行うと、うまく水上を歩けます」

といった内容のものも多い。

そんな風に簡単に物事が進むのなら、

誰も行き詰まったりはしない。

この手の問い合わせは、非常に気を使う。

それ以前に、相談先が違うのではないか、と思う。


誰でもどうしていいか分からず、

ただただ立ち尽くす時がある。

もう1歩も歩けない、と泣きたくなる時がある。

生きてきたのか、生かされてきたのかなんて、今問う必要はない。

多分、今必要なのは自分を信じる心だと思う。

お見送りをしながら、「踏ん張ってください」と、僕は小さく呟いた。




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